連載278 山田順の「週刊:未来地図」 五輪マラソン、突如、札幌に変更!(完)カネまみれIOCの拝金主義と体面づくろい

いまやオリンピックを招致する都市が激減

 ともかく、今日までいろいろなことが起こり、東京オリンピックは、当初掲げられた「コンパクト五輪」「復興五輪」ではなくなってしまった。そして、今回の札幌変更で、東京オリンピックでもなくなってしまった。
 そこで私が言いたいのは、「アスリートファースト」などはマヤカシに過ぎないのだから、もう提唱するのをやめるべきだということだ。たしかに、アスリートを守るのは大切である。
 しかし、開催都市の気候や環境により、それぞれの競技の内容が左右されるのは仕方ないことだ。すべての競技をベストコンディションでやらなければいけないというなら、自然に左右されるゴルフなどの屋外競技はどうするのか? 暑かろうと、多少の雨が降ろうと、やる競技はいくらでもある。そうした自然条件を克服して勝利を目指すのが、本当のアスリートなのではないだろうか?
 今回の札幌変更が「正しい措置」と言うなら、今後、オリンピックは一切、東南アジア、インド、中東、アフリカなど、1年中夏の熱帯では開催できないということになる。
 もっとも、オリンピックに熱を入れているのは、最近では日本ぐらいで、近年、五輪招致から撤退する都市が相次いでいる。
 東京の次の2024年パリ大会にしても、当初5都市が立候補したが、ハンブルク、ローマ、ブダペストが撤退し、結局、1924年パリ大会から100周年ということで、パリに決まった経緯がある。しかも、2028年ロサンゼルス大会も同時に決まった。2開催をいっぺんに決めなければならないほど、オリンピックは不人気なのである。
 これは、オリンピックをやっても儲かるのはIOCとスポンサーなどの企業だけで、開催都市と国は赤字を背負い込むだけだからである。
 ハンブルクは住民投票で反対が半数以上を占めて断念し、ローマは財政難を理由に降りた。ブダペストも「五輪の予算を医療や教育に使うべきだ」と反対派の声が強くなり、市長が断念した。
 この点を見れば、日本は本当に「お人よし」の国としか言いようがない。メディアに批判精神がないから、オリンピックをすることは素晴らしいこと、そして成功させることは国民の使命みたいに、国民が思い込んでしまっている。

じつは札幌も気温も湿度も高く、東京並み

 最後に、今回の開催地変更になった夏の暑さについて述べると、真夏開催はなにも東京だけではない。
2024年パリ大会は、7月26日から8月11日までの17日間、2028年ロサンゼルス大会は、7月21日から8月6日までの17日間、真夏の最中に行われる。
 それで調べてみたが、パリの真夏も、地球温暖化のせいか、最近は記録的な暑さを記録している。とくに今年は、7月25日に42.6度を記録。これは、東京の暑さを上回っている。
 また、ロサンゼルスも、過去の記録を見ると、夏に40度を超えたことが何度もある。ちょっと古いが、2010年9月30日、米国立測候所(National Weather Service)は、ロサンゼルスの気温が9月27日、史上最高の45度に達したことを発表している。
 では、変更になった札幌はどうだろうか?
 これは、日刊ゲンダイ(10月22日付)が記事にしている。その記事「湿度は東京並み…五輪マラソン『札幌コース』」でも侮れない」によると、状況はこうだ。

 《今年7月31日~8月9日の10日間について、多くの競技開始時の午前6時と競技中の午前8時の東京と札幌の気温と湿度を比べてみた。
 6時の平均気温は、東京27.5度、札幌24.0度、8時は東京30.4度、札幌26.2度。札幌が3~5度低い。ところが個別で見ると、6時は7月31日が札幌27.1度、東京27.9度と僅差だったり、8時は7月31日の東京の30.1度に対し、札幌は30.2度と東京より高い。札幌の30度超えの日は2日あった。日によっては環境省基準で「激しい運動は禁止」に近づく暑い日もあるのだ。
 さらに要注意は湿度だ。平均湿度は、6時が東京89.3%、札幌83.4%。8時は東京76.2%、札幌75.7%とほとんど同じ。札幌の方が高湿度の日もかなりある。
湿度が高いほど選手の消耗は激しい。棄権者が続出したドーハ世界陸上の女子マラソンも70%超の湿度の中で行われた。選手第一の視点に立てば、札幌のコースも決して侮れない。》

 もし、札幌のマラソンと競歩で、棄権者続出となったら、IOCはどうするのだろうか? 札幌市は東京並みに、予算を投じて暑さ対策をするのだろうか?
 いずれにしても、日本はとんでもないオリンピックを抱え込んだものだ。
(了)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。近著に、「円安亡国」(2015)「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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