連載279 山田順の「週刊:未来地図」 ニッポンの貧困、アメリカの貧困(第一部・上) 日本は7人に1人、アメリカでは6人に1人が貧困

 近年の日本とアメリカの最大の共通点は、先進国なのに異常に貧困率が高いことだ。日本もアメリカも、ともに「貧困大国」だと言うと驚く人が多いが、これは事実である。先進国なら、貧困率を少しでも低くするように努力をするべきだと思うが、安倍首相もトランプ大統領も「貧困問題」には、まったく関心がないようだ。
 世界第1位の経済大国のアメリカは6人に1人が、第3位の日本は7人に1人が貧困に喘いでいる。

保守派は貧困を「自己責任」と考える

 このところの相次いだ台風の惨禍を見て、自然災害には勝てない。人間はいつ何時すべてを失うことがあると、つくづく思った。そう思うと、貧困の多くは運命のいたずらであり、「自己責任」ではないと思うようになった。
 しかし、この世界にはそうは思わない人が多い。アメリカでも日本でも、保守層は、貧困に陥る人々は努力が足りないから、怠け者だから貧乏になるのだと考えている。つまり、貧困は自己責任であり、よほど不運な人を除いて助ける必要はないと考えているのだ。
 保守と革新の対立軸は、福祉政策について顕著だが、とくに貧困対策に関しては隔たりが大きい。日本は福祉国家としてはアメリカ以上とは思うが、最近は財政の逼迫から、年金や医療などの予算をどんどん削っている。生活保護も「行き過ぎ」だという声が強くなっている。

「自ら助けない者」を助ける必要はない

 アメリカでは、オバマ前大統領がやっと成立させた「オバマケア」(ひと言で言うと貧困層も含め全国民を医療保険に加入させる法律)をトランプ大統領がひっくり返そうとしてきた。オバマケアは、貧困対策としては最低限の制度だと思うが、共和党支持者をはじめとする保守層にとっては、受け入れ難いものだった。
 その理由の1つは、それまでの民間保険加入者にとって、保険の質が格段に落ちてしまい、「負担者による受益」が崩れてしまうことにあった。
 保守的な人々は、アメリカ人はみな独立独歩の精神で生きるべきだと考えている。「God helps those who help themselves.」(天は自ら助くる者を助ける)という言葉があるように、自ら助けない人をなぜ救わなければならないのかと考えている。
 国民皆保険制度がある日本から見ると、アメリカの共和党とその支持者の考え方は、行き過ぎだと思うが、理解できる部分もある。マーガレット・サッチャーの名言「The poor will not become rich even if the rich are madepoor.」(お金持ちを貧乏にしても貧乏な人はお金持ちになりません)は、まさにその通りだからだ。
 サッチャーは、「国家がお金持ちから税金でお金を取り上げて貧乏人に配っても、貧乏人がそれでお金持ちになれるわけではない」という意味で、この言葉を残した。貧困の解消は、単に国家がカネを再配分するだけでは達成できないのだ。
 いずれにせよ、貧困対策に関しては日米両国とも欧州の福祉国家に比べるとはるかに劣っている。それが、両国の「相対的貧困率」の高さに表れている。

「貧困」とはどんな状態を言うのか?

 ひと口に貧困対策と言っても、貧困の解釈が異なることがあるので、極めてあいまいだ。毎日の食べ物にも事欠くような極貧の暮らしを貧困とするのか、あるいは、ちゃんと食べてはいけても「人並み」(平均的)な暮らしができない状況を貧困とするのかによっても異なる。
 とはいえ、統計上では、貧困を大きく「絶対的貧困」と「相対的貧困」の2つに分けている。
 絶対的貧困とは、人間として最低限の生存を維持することが困難な状態を指す。つまり、常に飢えていたり、病気になっても医療を受けられなかったりする状態のことをいう。世界銀行では、現在、絶対的貧困を1日1ドル90セント未満で暮らす人々を貧困層と定めている。
 これに対して、相対的貧困とは、大多数の平均的な暮らしをする人たちに比べて貧しい状態をいう。世界の国々は、その国の経済や文化の状態によって、それぞれの国民の暮らしの程度が違う。そこで、その国の生活水準、文化水準の平均的な状況を割り出し、それ以下を相対的貧困としている。
 具体的には、世帯の所得が、その国の等価可処分所得の中央値の半分に満たない状態のことを相対的貧困と定義し、「相対的貧困率」として数値で示される。一般的に「貧困率」といわれるのは、この相対的貧困率のことだ。
 日本の場合、相対的貧困となる等価可処分所得の中央値の半分は122万円(2015年)となっている。

注: 「等価可処分所得」とは、収入から税金と社会保険料等を引いた可処分所得を世帯人数の平方根で割って算出した金額のこと
(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。近著に、「円安亡国」(2015)「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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