「貧困ライン」から見た日本とアメリカの貧困
「貧困ライン」(poverty line)という言葉がある。これは、統計上の指標で、このラインを下回ると生活が困難になり、貧困層と見なされることになる。
貧困ラインを計算するには、一般的に、1人の成人が1年間に最低限必要な物の購入費用を積み立てていく方法が取られている。ただし、貧困ラインは、きちんとした指標ではなく、国や機関によって異なっている。
日本の場合、貧困ラインは122万円(2015年)とされ、これは前述した相対的貧困を示す「等価可処分所得の中央値の半分」である。そのため、貧困ラインは、年によって変化する。
そこで、過去の貧困ラインを見てみると、1997年には149万円だった。なんと、2015年と比べて27万円も上回っている。日本は、バブル崩壊後「失われた30年」を続け、年々、貧しくなってきたのである。
では、アメリカはどうだろうか?
アメリカの国勢調査局が2019年8月に発表した貧困ラインは、1万3064ドル(約140万円)だから、日本をやや上回っている。もちろん、為替レートや物価水準の違いなどから単純比較はできないが、この額以下では、日米ともにまともな生活はできないことになる。
貧困ライン以下の貧困層の人口も発表された。それは、人口の11.8%に当たる約3814.6万人である。なんと、アメリカでは、約4000万人が生活に困窮しているのである。全米の人口は約3億2600万人。そのうちの1割以上が、貧しい暮らしを強いられている。
これまで世界は貧困を撲滅してきた
ここで、話を絶対的貧困に戻す。
絶対的貧困については、前記したように、世界銀行が定めている「国際貧困ライン」があり、それは1日1ドル90セント未満である。1ドル90セントといえば、日本円にして210円程度、月額にして6300円ほどにすぎない。これでは、貧困というより極貧、命をつなぐのも難しい。
では、そのような極貧の暮らしをしている人々は、どれほどいるのだろうか?
世界銀行によると、世界の貧困層は1990年に18億9500万人だったが、2015年には7億3600万人にまで減ったという。この四半世紀の間に、貧困層は11億人以上も減ったのだ。
もっと歴史をさかのぼると、1820年には世界人口の94%が極貧だったが、1990年には34%、2015年には9.6%に減っている。1820年に極貧を免れた人々は6000万人だったが、2015年には66億人に増えた。
産業革命によって生産が増加し、資本主義が発展して、20世紀は、世界から貧困がじょじょに消えていったのである。そして、21世紀、絶対的貧困は撲滅されようとしている。
富裕層は富み貧困層はますます貧しくなる
現在、貧困層の多くはサハラ砂漠より以南の「サブサハラ」に集中しており、ここにインドなどの南アジア地域を加えると、85%以上がこの2つの地域に集まっている。
こうした点を踏まえ、国連では「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の1つに、絶対的貧困の撲滅を掲げている。また、世界銀行は、絶対的貧困の比率を、2030年までに世界全体で3%まで減らすことを目標にしている。
このように、世界的に絶対的貧困は克服されつつあるのに、なぜ、日本やアメリカでは、相対的貧困が増えているのだろうか?
これに対するもっとも説得力のある説明は、世界的に格差が開いているということだ。たとえば、世界の超富裕層8人と下位36億人の資産額が同じといったデータ(NGO団体「オックスファム」調査)がある。富裕層はますます富み、貧困層はますます貧しくなる。この現象が、世界的に進行しているというのである。ITによるデジタルエコノミーの進展は、この現象を加速化させている。AIが人間の雇用を奪う状況を懸念する声も上がっている。
そのため、最近になって現在の資本主義に限界が来ている、とする指摘が多くなってきた。はたしてこのまま格差はさらに開き、貧困層は増えていくのだろうか?
(この続きは第二部として12月6日金曜号に掲載します)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。近著に、「円安亡国」(2015)「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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