前回は、日本もアメリカも「相対的貧困率」が、ほかの先進文化国に比べて高いことを指摘した。そこで、なぜこんなことが起こっているのかを考えつつ、今回は、日本の貧困の現状について見ていく。
統計が示すのは、日本の相対的貧困率が年々高くなっていることだ。日本は、ここ30年間、ほとんど経済成長をしていないため、貧困層が拡大しているのだ。しかも、「子どもの貧困」と「高齢者の貧困」が深刻化している。
相対的貧困率は上がり続けている
「日本は7人に1人が貧困」と、よく言われている。この数字の根拠は、厚生労働省が行なっている「国民生活基礎調査」にあり、最新の2015年の調査結果による相対的貧困率は15.6%である(OECDのデータでは 15.7%)。
前回指摘したように、この数字は、先進文化国家のなかでは突出して高い。しかし、30年前はそうではなかった。
次に、厚労省のホームページにある相対的貧困率の推移グラフを示すが、これを見ると、1985年は12.0%だった。それが、年々上昇し、2000年には15.3%となり、以後、高止まりを続けている。厚労省の前回調査の2012年にはこれまでのピークの16.3%を記録し、2015年にはやや下がって15.7%となったもの、今後はさらに悪化していくと考えられている。
https://foimg.com/00065/ENhq07(厚労省のHPより)
1人当たりの可処分所得の中央値の半分を「貧困ライン」とし、それ以下を貧困層としているが、この額は、現在122万円である。
そこで、この貧困ラインの算定基準の1人当たり可処分所得の中央値の推移を見ると、ここ20年間下がり続けている。その額は半端ではなく、20年間で50万円を超えている。年間、約2万5000円以上も所得が減るのだから、貧困化が進まないわけがない。
また、各種統計による日本人の平均年収は、ここ5年間ぐらいの数値をならしてみると約420万円である。しかし、20~30年前は450万円を超えていた(平均年収は富裕層、公務員なども含んだ平均値)。
「いまそこにある」貧困を描いた映画
国民1人ひとりの平均所得が減っていくということは、働く階層の下にいる派遣、パート、アルバイトなどの人々の暮らしが成り立たなくなっていることを表している。すでに、「年功序列、終身雇用」というサラリーマン社会はほぼ崩れ、そこから弾かれた人たちは、貧困に陥らざるを得なくなっている。
2013年に公開された映画「東京難民」は、日本の「いまそこにある」貧困を描いた映画として話題になったが、その内容はざっとこうだ。
〈主人公・時枝修は、気楽な毎日を送るどこにでもいるフツーの大学生だった。ところがある日、突然、父親が借金を抱えて失踪してしまう。その結果、学費が払えず大学を除籍され、家賃の支払いもできなくなり、アパートから追い出される。その後は、いわゆる「ネットカフェ難民」となり、ネットカフェを泊まり歩きながらバイトに明け暮れる日々が続いた。
そんなある日、騙されて入ったホストクラブで高額の料金を吹っかけられ、仕方なく、その店で奴隷労働をすることになる。しかし、次第に社会の不合理さに耐えられなくなり、ついにホームレスになってしまう—–〉
このような現実は、いまやどこにでも転がっている。最近では、貧困がメインテーマではないが、カンヌ映画祭でパルムドール(作品賞)を獲った映画「万引き家族」が、大きな話題になった。
ここでは、下町の底辺で暮らす、血のつながりのない「疑似家族」の生活が描かれている。その暮らしは、祖母の年金を頼りに、万引きによって成り立っている。
ホームレスの存在を隠すメディアと行政
「東京難民」にしても「万引き家族」にしても、自分が住む世界とは別世界の話と思っている人がいる。しかし、現在の日本はそうではない。それを感じなくさせているのは、メディアの報道姿勢ではないかと私は思う。
最近のメディアは、日本の現実、とくに「日本の恥」のようなところは一切隠し、社会問題に切り込まず、「日本はすごい」報道ばかり繰り返しているからだ。
もちろん、一部のメディアは日本の貧困を報道し、問題点を指摘している。私の知り合いのジャーナリストは、この問題を勢力的に取材している。
しかし、彼に言わせると、メディアの取り上げ方は、貧困層に「かわいそう」と同情を寄せるだけで、社会問題としての意識は薄いという。
彼は、ある雑誌で貧困の現場レポートをしたところ、こんなクレームが来たと嘆く。
「戦後日本ではあるまいし、いまどき、腹をすかして飢え死にしそうな人間がいるわけがない」
メディアと同じく、行政も貧困問題には真剣に取り組んでいない。そればかりか、貧困の存在を隠そうとする。これは、ホームレスの存在をないように見せかけていることで明らかだ。
(つづく)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。近著に、「円安亡国」(2015)「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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