連載284 山田順の「週刊:未来地図」  ニッポンの貧困、アメリカの貧困(第二部・下)メディアが取り上げない深刻化する日本の貧困

子どもの貧困が日本経済を衰退させる

 では、ここから、日本の貧困の問題点を具体的に整理してみたい。日本の貧困問題が深刻なのは、一つは、将来をになう子どもたちの6分の1が「子どもの貧困」に直面していること、もう一つは、高齢化とともに「高齢者の貧困」が進んでいることだ。 
 まず、子どもの貧困について見ていくと、17歳以下の子どもを対象とした「子どもの貧困率」は2015年で13.9%。厚労省によれば、約270万人の子どもが貧困状態にあるとされている。
 OECDの「学習到達度調査 PISA 2015」では、勉強机や自室、参考書、コンピュータの保有率など13項目の学用品を国際比較したデータを出している。13項目のうち保有数が5項目に満たない生徒を「貧困」とみなす仕組みで、日本の場合、貧困生徒の割合は5.2%に達している。この数字は、G7国のなかではもっとも高い。
 2016年に日本財団が発表した、子どもの貧困を放置した場合の社会的損失額を推計したレポートによると、0~15歳の子ども全員の将来の所得の減少額は42兆9000億円、財政収入の減少額は15兆9000億円に達する。
 つまり、子どもの貧困は、子どもだけの問題ではない。子どもたちが貧しいがゆえに教育機会を逃し、まともな大人にならなかった場合、日本経済はさらに衰退してしまう。現代は、受けた教育の程度によって所得が決まる仕組みになっている。中卒、高卒、大卒あるいは、資格の有無によって、給料は違う。よって、子どもの貧困は、親の自己責任で済ます問題ではなく、国や企業、周囲の大人も含めて、社会全体で解決すべき課題である。

根底にあるのは日本の「女性差別」

 子どもの貧困をつくり出すのは、言うまでもなく親の貧困だ。とくに「ひとり親世帯」(子どもがいる現役世代のうちの大人がひとりの世帯)の貧困率が50.8%(2015年)と高いことが、大きく影響している。
 端的に書くと、「母子世帯」(シングルマザー)が、子どもの貧困を生み出している。
 母子世帯の非正規社員比率は50%超えており、父子世帯が約13%なので、その差は歴然としている。日本では、母親が1人で子育てに奔走しながら仕事を続ける場合、まず正社員では雇ってもらえない。派遣ならまだましなほうで、多くはパートやアルバイトによって生計を立てている。しかし、どんなに働いても収入はたかが知れており、子どもの教育にかけるお金を捻出することは不可能に近い。
 では、正社員なら貧困から抜け出せるかというと、そうでもない。現在、シングルマザーの約4割が、正社員として就労しているが、子育てに追われるとフルタイムの仕事はなかなか難しい。保育所や幼稚園などの送り迎え、学校行事をこなしたうえで、なおかつ正社員としての仕事をするとなると、必ず限界がくる。
 しかもここに、男女の賃金格差が重くのしかかる。近年、日本の男女の賃金格差は是正されてきているとはいえ、いまだに女性の賃金は男性の7割にしか達していない。日本が「男女平等社会」というのはフィクションであり、実際は、いまだに女性差別社会である。
 これを是正しない限り、こどもの貧困はなくならないだろう。

静かに、しかし確実に広がる「高齢者の貧困」

 では、最近大きな問題になってきた「高齢者の貧困」はどうだろうか? 
 現在、65歳以上の「高齢者のいる世帯」の貧困率は27.0%。つまり、高齢者世帯の4世帯に1世帯以上が貧困世帯となっている。深刻なのは、高齢者世帯のなかの「ひとり暮らし世帯」(単身世帯)で、その貧困率は、男性単身世帯で36.4%、女性単身世で56.2%に達している。
 65歳以上の高齢者は、一部を除き年金受給者である。年金だけが唯一の収入源という高齢者も多い。しかし、現在の年金レベルでは最低限の生活すら維持できない。最近、「老後資金2000万円不足」がにわかに注目されたが、貯蓄がある高齢世帯はまだいいほうで、高齢世帯の4分の1が貯蓄ゼロとされている。
 年金収入だけの単身高齢者の場合、その収入は多くて年間150万円ほどで、これは貧困ラインをやや上回る程度にすぎない。もちろん、そこまで年金をもらえない高齢者のほうが多いので、生活保護受給世帯に占める「高齢者世帯」の数は、年々増加している。
 2000年時点で33万世帯だったのが、2016年時点では84万世帯。16年間で2.5倍以上に膨らんでいる。静かに、そして確実に高齢者の貧困は進んでいるのだ。
(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。近著に、「円安亡国」(2015)「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

【読者のみなさまへ】本メルマガに対する問い合わせ、ご意見、ご要望は、私のメールアドレスまでお寄せください。 → junpay0801@gmail.com