最貧困になると苦難に対して笑っていられる
鈴木氏は、次のように続ける。
〈それでも貧困層は、制度による支援の可能性が残されているだけマシともいえます。その人の貧困状態がホームレスという形で見えたなら、行政や反貧困系NPOなどの支援対象になります。あるいは伝統的に、貧困は創価学会と共産党といった一部の組織が支えようとしてきました。誰が見ても明らかな貧困に対しては、何らかの支援の手が伸びるのです。〉
〈一方、そうした支援者の視野からも外れてしまうのが最貧困層です。セックスワークや裏稼業でギリギリ生活できていて、身も心もボロボロの人たち。この層は差別の対象にされても、支援の対象にはなりにくい。理解者も現れません。〉
〈出会い系サイトで売春をするシングルマザーたちは、私が最貧困女子を取材してきたなかでも、圧倒的に不自由で、救いの光がどこにあるのかわからない「どん底の貧困」にあった人びとです。
10代で家出をしてセックスワークの世界に取り込まれてしまった少女たちのなかにも、滅茶苦茶な状況で働いている子がたくさんいます。けれども、どんなにひどい環境に置かれていても、目はキラキラ輝いているんです。彼女たちは、自分を傷つけてきた家から飛び出し、売春ワークでまた新たな性被害を受けながらも、自力で自由を手にしているからだと思います。だから、苦難も笑って撥ね返す力強さがある。〉
貧困の本当の原因は「男」にある
さて、このように見てくると、日本の貧困の最大の問題は、女性と子どもの貧困にあるのがわかると思う。「貧困女子」という言葉が生まれたのも、ここが、いまの日本の貧困問題の核心だからだ。
貧困の統計を見れば明らかだが、単身女性の3人に1人、1人親だと半数以上が貧困に陥っている。その結果、子どもの貧困が進んでいる。
なぜこうなってしまったのか?
それは、日本がいまだに男性優位社会を続け、女性を男性を補助する存在としてしか扱っていないからだ。いまだに、日本では「性的役割分業」が当たり前と思っている人々がいる。
女性には非正規雇用の仕事しかなく、また、出産・育児で退職を余儀なくされるというのは、男性が生計中心者で、女性は家事・育児を担い、働くとしてもパートで補助的な収入でよいという時代錯誤の性別役割分業の考え方である。これが、すべてに影響する。
離婚してシングルマザーになった女性の8割が子どもの養育費をもらっていない。つまり、女性と子どもの貧困は、男性に問題がある。「失われた30年」で賃金は減り続け、働くことに意欲をなくした男が増え続けた。
ヤンキーたちのほとんどは向上心を持たず、いまがよければそれでいいと暮らしている。そうした無責任な若い男たちがつくり出したのが、女性と子どもの貧困だ。
このような状況を政治的に解決できるだろうか?
現在、国と自治体は、貧困対策として、生活支援、教育支援などをはじめ、さまざまことを実行している。民間組織も貧困者のサポートに乗り出している。
しかし、日本の貧困は、長引く低成長から抜け出し、なおかつ、男性中心の社会が変わらない限り解決には向かわないだろう。
*さらに、この問題を続けます。次回は、日本から離れ、アメリカの貧困問
題を見ていきます。
(了)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。近著に、「円安亡国」(2015)「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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