連載289 山田順の「週刊:未来地図」ニッポンの貧困、アメリカの貧困(第四部・上) 先進大国アメリカで、なぜホームレスが増え続けるのか?

 これまで述べてきたように、日本の貧困は目で見えない。しかし、アメリカでは貧困は現実として目に飛び込んでくる。なぜなら、アメリカのどの都市でも数多くのホームレスを見かけるからだ。その数は日本の比ではなく、しかも増え続けている。ホームレスの増加はアメリカ社会を蝕む深刻な問題となっているのだ。しかし、政府や自治体に有効な解決策はなく、トランプ大統領は取り締まりを強化しているだけである。

東京の50倍以上の数のホームレスが!

 私がアメリカでよく行くのは、ニューヨークとロサンゼルス、それにハワイだが、そのどこでもホームレスの姿をよく見かける。そのたびに、この国は世界一の先進文化国なのだろうかと疑問になる。
 たとえば、ここ数年は毎年秋になると、娘が住んでいるのでニューヨークに行く。娘のアパートはチェルシーにあるので、滞在先は娘のところか、その近辺のホテル。そして毎朝、私は散歩に出て、行きつけのカフェに行って原稿を書く。
 そのとき決まって25丁目をマジソンパークに向かうが、6番街と5番街の真ん中辺りに、ダンボールを敷いて横になっているホームレスがいる。彼は金髪の白人で、年齢は40歳ぐらいだろうか、いつもギョロッとした目で通行人を見ている。
 私はなるべく目を合わせないようにしているが、時々目が合ってしまう。それで、もうすっかり顔なじみになってしまったが、秋が深まり、サンクスギビングが近づくと必ずいなくなる。
 「間違いなくホームレスシェルターに行ったと思うよ」と、娘は言うが、本当にシェルターに行ったかどうかはわからない。
 ホームレスの支援団体「Coalition for the Homeless」によると、2019年8月時点のニューヨーク市のホームレス人口は、2万1802人の子ども含む6万1674人。あまりに数が多いので、ホームレスシェルターはまったく足りていない。
 デブラシオ市長は、2014年の就任時からホームレス問題を最優先課題に掲げ、2019年には対策費用に32億ドルを計上。昨年は、向こう5年間で計90のシェルターを増やす計画を発表している。
 ニューヨークと東京のホームレスの数を比べると、慄然とする。東京はここ十数年で、ホームレス対策が進み、2018年に行われた調査では、東京23区内で暮らすホームレスの数は1397人まで減った。これには、前回まで述べてきたようなカラクリがあるが、ニューヨークに比べると圧倒的に少ない。
 単純比較すれば、ニューヨークには東京の50倍以上の数のホームレスがいるのだ。

ホームレス追い出し政策に他州が反発

 ニューヨーク市では、1980年代半ばからホームレスを街角からなくし、シェルターに収容したり、市外に移したりする対策を始めた。しかし、その数は一時的に減少することはあったが、2008年のリーマンショック以後は、増加の一途をたどっている。
 2017年、ニューヨーク市は、「SOTA」(Special One-Time Assistance Program)と呼ばれるホームレスの自立支援プログラムを始めた。このプログラムは、一定の条件を満たす家族や個人に対し、シェルターを離れ、市内およびニューヨーク州、他州で生活するために1年分の家賃と生活補助金を提供するというもの。その結果、5074家族、1万2482人がニューヨーク市を離れたと、ニューヨークポスト(2019年11月4日)は報じている。
 しかし、このプログラムの評判は悪い。なぜなら、これは単なるホームレスの追い出し政策に過ぎず、追い出し先の市町村や州にツケを回しただけだからだ。
 もっとも反発したのはハワイ州で、ハワイ州選出のジョン・ミズノ下院議員は、ウィリアム・バー司法長官宛の書簡で「ニューヨーク市のプログラムには違法性があるので調査してほしい」と要請した。ミズノ下院議員の主張は、「(SOTAは)移転させられたホームレスの個人または家族が必要とする安全性と福祉、継続的な支援を提供していない」というものだ。
 ニューヨークポストによると、ハワイ州以外の多くの州や市で抗議、困惑の声が上がっているという。その1つ1198家族の行き先となったニュージャージー州ニューアーク市では、ニューヨークにSOTA受給者を送ることを禁止する条例を採決する手続きを進めているという。

カリフォルニアは全米一ホームレスが多い州

 ロサンゼルスもニューヨークと同じ状況になっている。いや、もっとひどい状況になっている。
 2019年6月4日、ロサンゼルス郡当局が発表したところによると、ロサンゼルス郡内の保護施設や車内、路上で寝起きするホームレスの数は、昨年1年間で12%も増加し、約5万9000人に達した。
 とくにロサンゼルス市では、このとことろ、毎年、10%以上の割合でホームレスが増えている。
 ロサンゼル市に限らず、サンフランシスコ市、サンディゴ市などを含むカリフォルニア州全域でホームレスの数は増え続けている。
 カリフォルニア州の人口は全米の12%に相当するが、ホームレスに限れば25%に上っている。なんと、全米のホームレスの4人に1人がカリフォルニア州にいることになる。よって、ホームレス問題は、カリフォルニア州では最優先の政治課題になっているが、いまのところ、有効な解決策はない。
 なぜなら、ホームレス増加の最大の原因は、手頃な価格の住宅の不足と家賃の高騰とされるからだ。さらに、シェルターに入ることへの抵抗感、麻薬中毒や心の健康の問題などが、複雑に絡み合っていて、単に貧困に対する支援を行えばいいという問題ではなくなっている。
(つづく)

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。