連載291 山田順の「週刊:未来地図」 ニッポンの貧困、アメリカの貧困(第四部・下)先進大国アメリカで、なぜホームレスが増え続けるのか?

トランプ大統領はホームレスに冷たい

 リベラルメディアの雄「ワシントンポスト(WTP)」は、トランプ政権のホームレス対策について、継続的な報道を続けている。
 この9月16日、ホワイトハウスの経済評議会(CEA)はホームレスに関する報告書を公開したが、そこでは、ホームレスの警官による取り締まりを強化する必要性が述べられていた。
 報告書は「単にホームレスであるという理由だけでホームレスの人々を逮捕または投獄することを意図した政策は非人道的であり間違っている」としたものの、「警察は人々を通りからシェルターや住宅に移動させるのに役立つ重要なツールになるかもしれない」とされていたという。
 この報告書が公開された翌日、トランプは大統領選の資金集めのため、カリフォルニア州を訪問し、こう述べた。
 「私たちの最高のハイウェー、私たちの最高の街、私たちの最高のビルの名声を台無しにする恐れのあるホームレスのキャンプを片付けなければ、私たちは自滅する」
 WTPによると、トランプは主要都市の持続的な貧困と犯罪を民主党のせいにしてきており、カリフォルニア州におけるホームレスの大規模な取り締まりを開始するよう側近に指示したという。
 これは、ホームレスキャンプや路上にいるホームレスを新しくシェルターを造ってそこに収容する。そのためには、行政が彼らを強制的に排除するということを意味する。
 カリフォルニアは民主党州である。そのため、カリフォルニア州の多くの民主党議員は「(トランプは)ホームレスを犯罪化しようとしている」として、彼の政策を批判している。

ホームレスを犯罪とする法律が強化中

 しかし、トランプのホームレス排除政策をいくら批判しても、現実は理想どおりにはいかない。
 たとえば、サンフランシスコでは、ロンドン・ブリード市長(初のアフリカ系女性市長)が、「人々が必要とする住宅を提供せずにホームレスを厳しく取り締まることは本当の解決策ではない」と語るものの、その一方でホームレスへの市民の苦情に対処するため、警官の数を24人から58人に増やし、同時にホームレスキャンプを掃除する衛生労働者の数も増やさざるを得なかった。
 サンフランシスコには、最大で8000人のホームレスがいるとされるが、シェルターのベッドは2400人分しかない。
 サンフランシスコに限らず、多くのリベラルな都市で、ホームレスを取り締まる法律が制定、強化されている。路上での横たわり、物乞いの禁止、公共の場所でのキャンプの禁止などは、ほぼどこの都市でも法律化されている。WTPによると、ロサンゼルスでは17、サンフランシスコには24のホームレスに関する法律が存在するという。これらの法律は、「効果的にホームレスを犯罪化している」と、WTPは批判する。
 トランプは、最初の2年間で、ホームレス対策をになう部署の1つ住宅都市開発省(HUD)の予算を31%削減した。そして、2020年には16%削減することを計画しているという。これでは、ホームレス問題はさらに深刻化し、アメリカの貧困化は進むばかりだ。

約3800万人が貧困ライン以下で暮らしている

 今回の最後に、アメリカの貧困問題を統計からまとめておくと、次のように
なる。
 2019年9月、国勢調査局が発表したところによると、アメリカの「貧困ライン」(2018年)は、1万3064ドル(約140万円)で、それ以下の人口は全人口の約11.8%にあたる約3814.6万人となっている。全米では、約3800万人の貧困層が存在するということになる。そして、その貧困層の内訳は、次のようになっている。

[年齢別]
18歳未満:約16.2%(1186.9
万人)、18~64歳:10.7%(2130.0万人)、65歳以上:約9.7%(514.6万人)

[男女別]
男性:約10.6%(1678.2万人)、女性:約12.9%(2136.3万人)

[人種別]
白人(非ヒスパニック):約8.1%(1572.5万人)、 ヒスパニック:約17.6%(1052.6万人)、黒人:約20.8%(888.4万人)、アジア系:約10.1%
(199.6万人)

[学歴別(25歳以上)]
全体:約9.9%(2191.6万人)、高卒未満:25.9%(569.3万人)、高卒:12.7%(792.5万人)、大学中退もしくは大学学科履修中:約8.4%(481.2万人)、大卒以上:約4.4%(348.6万人)

[出身国別]
アメリカ:約11.4%(3182.8万人)、外国(帰化):約9.9%(221.5万人)、外国(末帰化):約17.5%(410.3万人)

[両親の有無]
両親がいる世帯:約4.7%(293.8万人)、片親(母)世帯:約24.9%(374.2万人)片親(父)世帯:約12.7%(82.4万人)

[就労の有無]
全体(18以上65歳未満):10.7%(2113.0万人)、就労有(週労働35時間以上かつ年間50週以上):約2.3%(254.4万人)、就労あり(週労働35時間未満又は年間50週未満):約12.7%(523.7万人)、就労なし:約29.7%(1334.9万人)

 次回第5部では、アメリカが直面している貧困問題が、じつはトランプ大統領を誕生させたことに関して考察する。
(了)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

【読者のみなさまへ】本メルマガに対する問い合わせ、ご意見、ご要望は、私のメールアドレスまでお寄せください。 → junpay0801@gmail.com