連載299 山田順の「週刊:未来地図」 安倍政権はなにをしてきたのだろうか?(第一部・上) 史上最長政権の7年間を振り返る

 今回は、史上最長の長期政権を続ける安倍政権のこれまでを振り返ってみることにした。第一部は主に経済に関して検証する。
 2012年12月に誕生した安倍政権は、今月で丸7年を記録した。(編集部注:このコラムの初出は12月17日)
 安倍首相の自民党総裁としての任期は2021年9月末日だから、このまま何事もなければ、9年間も私たちは、この首相の下で暮らしていくことになる。それで、聞きたいのだが、安倍政権の下で、私たちの暮らしは良くなったのだろうか?

安倍首相の言葉は心にまったく響かない

私は、基本的に「保守」である。「リベラル」「左派」は、好きではない。しかし、保守政権といわれてきた安倍政権は好きではない。もちろん、好き嫌いで政治を語ってはいけないが、安倍晋三という首相は、ハナから「こんな人物で大丈夫か」と思ってきた。
 まず、知性、教養がない。そして、素直でない。リーダーとして資質を持ち合わせていない。だから、言葉に力がなく、彼の答弁、演説、インタビューなどいくら聞いても、心にまったく響かない。心に響いたというか、いまでも心に残っているのは、「もり・かけ問題」「桜を見る会問題」などで繰り返されてきた言い訳、ごまかし、ウソだけである。
 評論家の適菜収氏は「活動的なバカ」と呼び、あるコラムで、次のように述べていた。

 「ゲーテも言うように、活動的なバカほどタチの悪いものはない」「歴代総理の中でも圧倒的に出来が悪い。国家観も歴史観も憲法観もすべてが変」

 安倍政権支持派の人々は、経済と外交を評価し、常に「民主党政権よりはマシ」と言い続けてきた。また、「ほかに代わる人がいない」とも言ってきた。はたしてそうだろうか?

「評価する」という人が5割以上

 安倍首相の通算在任日数が憲政史上最長となった後、日本経済新聞が世論調査をした(11月24日付け紙面)。その結果によると、第2次安倍政権の仕事ぶりについて「評価する」と答えた人が55%、「評価しない」と答えた人が34%となっていた。
 なんと、5割以上の日本人が、安倍首相のこれまでの仕事を評価に値すると思っているのだ。
 この「評価する」は、内閣支持層で86%にも上っているが、不支持層では20%。「評価しない」は、内閣支持層で8%、不支持層で70%となっていたので、内閣支持層と安倍内閣の評価がほぼ一致しているのがわかる。
 無党派層の内閣支持率はこれまで一貫して低かったが、これは「評価する」「評価しない」でも同じで、「評価する」が38%、「評価しない」が45%だった。ただ、「評価しない」が50%を超えていないから、やはり、安倍内閣は、これまで「いい政権」だと思われてきたのは間違いないだろう。
 人間の記憶というのは、時間がたてばたつほどあいまいになる。多くの日本人、とくに若者は、政治に無関心だから、安倍内閣がやってきたをきちんとわかっている人は少ない。その意味で、世論調査というのは、あまりあてにならない。細かい質問設定がなければ、「印象」を聞いているだけになる。
 とすれば、安倍内閣、安倍首相というのは、人々にとっていいイメージを持てる政権だったとはいえるだろう。これだけは、間違いない。
 ただし、直近の時事通信が実施した世論調査では、安倍内閣の支持率は前月比7.9ポイント減の40.6%と、大きく下落している。「桜を見る会問題」が響いたといえるが、これとてイメージだけかもしれない。

安倍首相が7年間でこなした政治日程

 では、あいまいになった記憶をただすため、次に、安倍政権のこれまでの主な歩みをまとめておきたい。

【安倍晋三政権の歩み(第2次政権以降)】
2012年 12月▷︎衆院選で自民・公明が勝利、第2次安倍政権発足
2013年4月▷日本銀行が量的・質的金融緩和を決定。アベノミクス「3本の矢」が喧伝される
2013年7月▷参院選で与党が勝利、「ねじれ国会」解消
2013年9月▷東京2020五輪開催が決定
2014年4月▷消費税率5%から8%に引き上げ
2014年5月▷内閣人事局が発足
2014年12月▷衆院選で与党が勝利、第3次政権が発足
2015年9月▷自民党総裁に無投票再選、安全保障関連法が成立
2015年12月▷慰安婦問題で日韓合意
2016年5月▷伊勢志摩サミット開催
2016年7月▷参院選で与党が勝利、衆参で改憲勢力が3分の2超に
2017年1月▷トランプ米大統領が就任。就任前の16年11月に渡米して面会。
2017年5月▷憲法9条を改正して20年施行を」目指すと表明
2017年10月▷衆院選で与党が勝利、11月に第4次政権が発足
2018年3月▷森友学園を巡る問題で佐川国税庁長官(当時)が辞任。「もり・かけ問題」「もり・かけ問題」で国会紛糾。
2018年9月▷自民党総裁選で石破元幹事長を破り、連続3選
2018年10月▷7年ぶりに中国を公式訪問
2018年12月▷米国抜きの環太平洋連携協定(TPP)が発効
2019年 7月▷参院選で与党が勝利、改憲勢力は3分の2を割り込む
2019年4月▷新元号を「令和」と決定
2019年10月▷消費税率8%から10%に引き上げ
2019年11月▷ 「桜を見る会問題」発覚で国会紛糾

 以上、主な政治的な出来事を振り返ったが、これで思うのは、安倍政権が選挙に強かったことだ。全国区の選挙では、すべて与党が圧勝してきた。その意味で、日本人は安倍政権がもたらす「保守ムード」を歓迎してきたといえるだろう。
(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

【読者のみなさまへ】本メルマガに対する問い合わせ、ご意見、ご要望は、私のメールアドレスまでお寄せください。 → junpay0801@gmail.com