経済成長で世界ダントツの低成長を更新
ついこの前まで、安倍政権は、「戦後最長の好景気が続いている」と言ってきた。ならば、日本人の生活は、もっと良くなったはずだが、そうはならなかった。なぜなら、先進国ではダントツの低成長率で、1人あたりのGDPも世界で20番目以下に落ちてしまったからだ。
次の3点は、首相自らと支持派がよく持ち出す、“悪夢の民主党政権”時代との比較である。安倍政権は、民主党政権時代に比べてこんなによくなったと言うために、こうした数値を持ち出して、成果を強調してきた。そこで以下、その主要な3点について検証してみる。
(1)実質GDP増加
安倍政権(2018年)
…534兆円
民主党政権(2012年)
…499兆円
(2)就業者数の大幅増加
安倍政権(2018年)
…6655万人
民主党政権(2012年)
…6271万人
(3)失業率の改善
安倍政権(2018年)
…2.4%
民主党政権(2012年)
…4.3%
(1)の実質GDP増加は、たしかにそのとおりである。ただ、これは、円ベースだけの話で、基軸通貨であるドルで見なければ実際のところはわからない。では、ドルで見た日本のGDPはどうなってきただろうか?
1995年 5兆4491億ドル
2008年 5兆 379億ドル
2018年 4兆9719億ドル
このように、1990年代半ばから、ずっと減り続けているのだ。これでは、民主党政権時代との比較など意味がない。さらに、この間に他国は、GDPを何倍にも増やしている。
アメリカのGDPは、1995年は7兆6397億ドルだったが、2018年には20兆4941億ドルに達した。なんと約3倍になっている。中国を見ると、1995年は7369億ドルだったものが、2018年には13兆4074億ドルになり、なんと約18倍になっている。
2018年だけの成長率を見ても、日本はわずか0.8%で、世界 167位の低成長率である。また、1人当たりのGDPは、2012年4万8632ドルで世界 15位だったが、2018年は3万9306ドルと世界 26位に転落している。つまり、安倍政権は世界でもダントツの低成長を更新し続けているだけなのだ。
就業者数増加、失業率低下の本当の原因
(2)の就業者数の大幅増加も、数値だけを見るとたしかにそうである。それで、安倍首相は、雇用をつくり出したと、ことあるごとに強調してきた。昨年の選挙では、こう言った。
「この6年間で、私たちの経済政策によって雇用は380万人増えました。増えたということはまさに、年金の支え手が増えたんです」
しかし、これは巧妙なレトリックで、増えた380万人中の約7割にあたる266万人は65歳以上の高齢者である。つまり、65歳でリタイアできず、その後も働かなければ暮らしていけない人々が増えたのである。さらに、15~24歳の就業者も90万人増えているが、その内訳は高校生・大学生など74万人。つまり、バイトだ。また、15~64歳の女性就業者も増えているが、非正規が多く、賃金も低い。
安倍首相は、「若者就職内定率と有効求人倍率が最高」ということも自慢してきた。しかし、少子高齢化で、若年人口が減少して、「売り手市場」になっただけの話で、アベノミクスの成果ではない。
(3)失業率の改善に関しても、同じ見方ができる。
少子化で若者人口が減れば、就職口に見合う若者が減ったのだから、自動的に有効求人倍率は上がる。実際、新規大卒・高卒者内定率は民主党政権時から上昇が続いていて、有効求人倍率も2010年から右肩上がりを続けている。
こうなれば、失業率も下がるのは当たり前で、新しい雇用ができたわけではない。
現在の日本で雇用が伸びている産業は、医療、福祉、建設、サービスだけ。最近は、業績がいい大企業でもリストラが進んでいる。人手不足というのは、偏った産業だけで起きている現象にすぎない。とくに失業率の改善に大きく貢献しているのが、介護分野で、これは高齢社会のせいであって、アベノミクスとはなんの関係もない。
もし、安倍政権が民主党政権よりはマシだという数値があるなら、それは、毎年の国債発行額が減った点だろう。
安倍政権(2018年)
…149.8 兆円
民主党政権(2012年)
…174.2 兆円
しかし、これも、2回の消費税増税で税収が増えたからで、政府の無駄遣い、バラマキが減ったせいではない。
実質賃金は年々低下し歯止めがかからない
安倍政権が、けっして言わないことがある。それは、日本人の「実質賃金」(名目賃金から物価変動を加味した数値)が、毎年、減少してきたことだ。
国民にとっていちばん大事なことは、生活を支える「1人あたりの実質賃金」が増えることだが、安倍政権下では、減り続けてきた。
日本人の平均年収(国税庁の民間給与実態調査)の推移を見てみると、1990年の平均給与は約425万円。1990年以降、しばらくは上昇を続けたが、1997年の約467万円をピークに下がり始めている。
そしてその後は、ずるずると下がり続けて、2018年は441万円となる。1990年からの28年間で、上昇した平均給与はわずか16万円。ピーク時の1997年からは26万円も下がっている。
アベノミクスの期間中、前年比で上がった年はあるが、この傾向はずっと変わっていないのだ。
日本が経済成長をしていないのだから仕方ないといえるかもしれないが、賃金低下は、国際比較をしてみると異常である。1997年=100とした場合の「実質賃金指数」で見た場合、次のようなデータになる(2016年現在、OECDのデータを基に全労連作成)。
・スウェーデン…138.4
・オーストラリア…131.8
・フランス…126.4
・イギリス(製造業)…125.3
・デンマーク…123.4
・ドイツ…116.3
・アメリカ…115.3
・日本…89.7
安倍政権の7年間で、日本は確実に貧しくなっている。それが、この10月の消費税増税で、実感としてはっきり感じられるようになってきた。実際、11月の景気DIは前月比0.3ポイント減の43.6となり、2カ月連続で悪化している。(了)
*第二部では、主に外交面から、安倍政権の7年間を振り返る。
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
【読者のみなさまへ】本メルマガに対する問い合わせ、ご意見、ご要望は、私のメールアドレスまでお寄せください。 → junpay0801@gmail.com