連載302 山田順の「週刊:未来地図」安倍政権はなにをしてきたのだろうか?(第二部・上)史上最長政権の7年間を振り返る

 安倍政権の支持率は下がってきた。首相候補の人気投票でも、安倍首相は、石破茂、小泉進次郎の後塵を拝して3位に転落した。「桜を見る会」問題もあって、国民は長いだけでほぼなんの成果も上げられなかった政権に飽き飽きしてきたのかもしれない。
 第二部では外交(安全保障)を中心に、安倍長期政権の7年間を振り返る。そして、この政権が7年も続いた理由を考えていく。

北朝鮮とロシアからまったく相手にされず

 大手メディアはこの7年間、「外交の安倍」として、常に安倍首相を持ち上げてきた。アメリカのトランプ大統領とロシアのプーチン大統領とは「オトモダチ」になり、それぞれ「ドナルド」「ウラジミール」とファーストネームで呼び合う仲になった。日本の最大の外交課題である拉致問題を抱える北朝鮮に対しても、金正恩総書記と「オトモダチ」になろうと、「前提条件なしの首脳会談」を呼びかけたりもした。
 では、この「オトモダチ」路線で、いったいなにかが解決しただろうか?
 安倍首相が、就任時から掲げたのは、「私の政権の最重要課題」とした拉致問題と、「私の世代で終止符を打つ」と高らかに宣言した北方領土問題だった。
 しかし、7年たったいま、成果はゼロばかりか、マイナスである。拉致問題はまったく進展せず、これまで何度も日本に向けてミサイルを撃たれるという体たらく。しかも、金正恩委員長は、安倍首相の「前提条件なしの首脳会談」をせせら笑うという有様だ。
 北方領土問題は、もっとひどい。プーチンとは“膝を付き合わせて”27回も首脳会談を行なったにもかかわらず、事実上の北方領土放棄を飲まされてしまった。そればかりか、3000億円の経済援助をする羽目になった。
 当初目指した「2島返還」からは、完全後退。最近では、「北方領土」という呼び方をしないよう、政府自らが言い出すのだから、あきれるばかりではないか。

就任前の押しかけ訪問パフォーマンス

 複雑に入り組んだ国際関係のなかで、どんな政権であろうと、外交で得点を挙げるのは難しい。とくに、日本はいまだに第二次大戦の敗戦を引きずらなければならないうえ、アメリカの“属国”であるから、独自外交などできるわけがない。このことを、国民はよく知っている。
 ならば、できもしないことを宣言しても仕方ないと思うが、安倍首相はこれを堂々と、これをやってきた。ええかっこしい(パフォーマンス)が大好きなのだろう。
 そのパフォーマンスの最たるものが、まだ就任してもいないトランプをトランプタワーに訪ねたことだ。2016年11月、トランプと満面の笑顔で握手している写真と、「(トランプ氏は)信頼できる指導者だ」というコメントは世界に向けて発信された。
 これを、日本のメディアは大喜びで持ち上げたが、世界各国の首脳たちがあきれたことは伝えなかった。就任前の大統領を他国の首脳が訪問することは、外交上やってはいけないことだからだ。こんなことをしたらまだ大統領でいるオバマはどうなるのか? アメリカという国家に対する外交非礼もはなはだしかった。
 あとで、この件についてトランプは、次のように経緯を述べている。アベがすぐに会いたいというのでOKしたが、それは大統領就任後のすぐだと思っていた。しかし、アベは本当にすぐにやって来た…。
 こうして、安倍首相は「シンゾー」とファーストネームで呼ばれるようになり、ゴルフもいっしょにやる仲になった。しかし、日米関係はかつてないほど、アメリカの力が強くなり、日本の属国化は進んでしまった。

トランプのATMになってしまった日本

 トランプは、日本に中国と同じように関税戦争をふっかけてきて、FTA交渉では日本が完敗した。国会で安倍首相は「ウィンウィン」と言ったが、合意内容を見れば、日本はなにも得ていない。クルマ関税の撤廃は実現せず、アメリカからの農製品の輸入関税はTPPレベルに引き下げられることになった。さらに、余っているトウモロコシを大量に買わされることになった。
 安倍首相の日米外交は、かつてのどんな政権より「イエス、イエス、イエス」である。その結果、現在、日本は「日本を守る」安全保障代金として、米軍の駐留経費(=思いやり予算)80億ドルをふっかけられている。これは、現在の額の約4倍だ。
 すでに、ミサイル防衛システム「イージス・アショア」を買ってしまったが、いまになってこれが北朝鮮の新型短距離弾道ミサイルに効かない可能性が指摘されている。
 F-35戦闘機の購入も、安倍首相はアメリカの言い値で受けた。現段階で、F-35AとF-35Bを合わせて147機を買うことが決まっていてすでに導入が始まっているが、F35Aは1機あたり約100億円、F-35B はさらに高額で約150億円もする。計147機の購入で総額が1兆2600億円以上となる見込みと伝えられている。この額は、今年の9月以降、日本を襲った台風被害に対する補正予算、約1兆円より多い。また、東京都が組んだ復興予算は144億円だから、F-35Bにすると1機分にすぎない。今月完成した五輪用の新国立競技場が10カ所も建設できる金額だ。
 こうなると、安倍首相というのはトランプにとって、「フレンド」と言うだけでお金を引き出せる ATMと呼ぶほかないだろう。
 (つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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