連載309 山田順の「週刊:未来地図」 NY株3万ドル目前で、嫌な予感(上) 株と債券が暴落する「金融バブル崩壊」はあるのか?

 NY株価は、いまや3万ドルの大台が目前に迫るまで高騰している。その原因をメディアは、イラン危機の後退と米中貿易交渉の第一段階合意の締結としているが、はたしてそうだろうか?(編集部注:このコラムの初出は1月21日)
 今年の世界経済の見通しは、昨年より悪い。しかも、イラン危機も米中貿易戦争も、解決したわけではない。さらに、世界中で金融緩和が続き、アメリカをはじめとして財政赤字は際限なく積み上がっている。
 株と債券が暴落する「金融バブル崩壊」の足音がひたひたと聞こえてはこないだろうか?

リーマンショック超える大恐慌になる予感

 1月15日のニューヨーク株式市場(NYSE)のダウ平均(NY株価)は、ついに節目と考えられてきた2万9000ドルを超え、史上最高値をつけた。この日は、米中貿易交渉の第一段階合意の調印日であり、イラン危機も一段落したので、市場はそれを歓迎したと、各メディアは報道した。
 そして、その後もNY株価は続伸し、いまや3万ドルは目前。このままいけば、3万ドル超えは間違いないだろうという声が強まっている。
 しかし、私には「いやな予感」がする。3万ドル超えが達成されたら、その達成感から、なにかあれば一気にバブルが崩壊するのではないかという、本当に、なんとも言えない「いやな予感」だ。
 私は投資家ではないので、NY株価がどうなろうと、直接には関係ない。しかし、それをきっかけに世界経済がリーマンショク後のような大停滞に陥り、これまで溜まりに溜まってきた「金融バブル」が崩壊し、世界が一気に暗い時代に突入してしまうことを恐れている。しかも、今度来るに違いない金融バブル崩壊は、リーマンショックをはるかに超えた大恐慌規模かもしれないからだ。
 なぜ、そう思うのか?
 それはNY株価が、現在の世界の景気を反映していないばかりか、世界中から金融緩和で溢れたお金が流れ込んでいるだけだからだ。

株価は世界経済が成長する限り、上がり続ける

 未来永劫にわたって株価は上がり続ける。そう信じている人々がいる。それは、ここまでの歴史を振り返れば、ある意味まったく正しい。世界経済は、長い目で見れば拡大を続けてきた。それにともない、株価は何度か下落を繰り返しながら、これまで上がり続けてきた。
 かつてウォーレン・バフェットは、今後100年でダウ平均が100万ドルになると言ったことがあったが、それは、20世紀から21世紀の人類の歴史から見れば、大言壮語ではない。
 この半世紀を見ても、世界経済の規模は約5倍になり、世界の食糧生産は約2.5倍になった。それを背景に人口は増え続け、人類社会は経済成長を続けてきた。株価は、この経済成長の反映だから、これが続けば、将来にわたって株価は必ず上がり続ける。
 しかし、いまそれを信じて株を買い続けていいのだろうか?
 長期的に見ればそうであっても、短期的に見れば現状はこれまでのどんなときとも違う「量的金融緩和」「ゼロ金利」時代であり、さらに、世界経済の成長は鈍化している。その状況を無視していいのだろうか?
 大手の経済メディアは表面的な報道しかしないが、すでに昨年から多くのオルトメディアがバブル崩壊をさかんに指摘している。

国際機関はみな世界経済の減速を予測

 オルトメディアの指摘は、陰謀論も含めあえて注目を引くための脚色もあるが、それを割り引いてみても、世界経済の現状は良くない。
 国際連合は1月16日、2020年の「世界経済見通し」( WEO:World Economic Outlook)を発表した。
 それによると、最悪のケースで世界全体の経済成長率は1.8%に低下し、2019年を下回ってさらに減速するとされている。ただし、米中貿易戦争などが悪化しなければ2.5%を達成する可能性もあるとしている。
 しかし、2.5%というケースでも、ここ数年の成長率を大きく下回っている。すでに、2019年の成長率は、1年前の予測3.0%から2.3%に下方修正されていて、過去10年でもっとも低くなっている。
 では、世界経済をけん引していく米中両国の成長率はどうだろうか?
 アメリカの場合は、2019年の2.2%から2020年は1.7%に低下し、2021年には1.8%になると予測している。中国の場合は、2019年に6.1%、2020年に6.0%、2021年に5.9%と微減していくとしている。
 この国連の経済見通しの1週間前、1月8日に、世界銀行も2020年の「世界経済見通し」(GEP:Global Economic Prospects)を発表した。それによると、2020年の世界の経済成長率は2.5%と予測されている。これは、前回の見通し(2019年6月)から0.2ポイントの下方修正である。
 この世銀の見通しで注目すべきは、新興国の経済成長に累積債務の増加が影を落としていると指摘していることだ。先進国の成長が減速するなか、新興国の債務は限りなく膨張しているので、たとえ経済が回復しても、世界全体の成長率は低下し続けることになる。
(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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