株価指数から見ると「暴落」は必ず起こる
NYダウを形成するのは、アメリカ(いや世界を)代表する大企業群だ。アップル、ボーイング、マイクロソフト、インテル、ウォルト・ディズニー、VISA、
JPモルガン・チェース、
マクドナルド、ジョンソン・アンド・ジョンソン、
ナイキ……などの企業の株価が、今後、大きく崩れることは、あまり想像できない。
しかし、これらの企業の株価は、すでに「割高」になっている。
昨年12月のこのコラム「世界経済は後退局面なのに、株も為替もこのまま適温相場が続いていくのか?」では、株価を評価するための代表的な指数を紹介した。
その1つ「バフェット指数」(Warren Buffett Indicator)は、いまや100%を大きく上回り140%台になっている。この指数は、「株式時価総額 ÷ 名目GDP × 100」で算出されるが、根底に「株式の時価総額と名目GDP(=実体経済)はほぼ一致する」という考え方がある。つまり、株価は実体経済の成長率と連動するという考え方である。
となると、140%台というのは、現在のNY株価は、どう見ても割高ということになる。
もう1つ紹介した指数に「CAPEレシオ」(Cyclically Adjusted Price Earnings Ratio)がある。これは、「現在の株価 ÷ 過去10年間の1株あたりの純利益の平均値」で求めるので、株価が長期的に見て「高いか低いか」を表す。CAPEレシオの場合、おおむね25ポイント超えると割高と判断される。CAPEレシオは、1881年から現在までの100年を超えるデータがそろっており、その平均値は約16ポイントである。
では、現在のNY株価のCAPEレシオはどうだろうか?
なんと、ほぼ30ポイントである。
これまでの歴史でCAPEレシオが25ポイント超える期間がある程度続くと、株価は暴落している。過去を見ると、ITバブル崩壊前が79カ月、リーマンショック前が52カ月でNY株価は暴落した。
今回はすでに67カ月が経過している。株価は、いつ暴落しても不思議とはいえないところに来ている。
日本株を動かしているのは公的資金
ここまでNY株価について述べてきたので、日本株についても述べておきたい。
もう何度も指摘してきたが、日本株(日経平均)はNY株の「コピー相場」である。そして、それを動かしているのは、公的資金(政府系金融であるGPIF、郵貯、かんぽ生命など、総資金量約450兆円)と日銀(資金量は無限)、そして、日本の機関投資家(生損保と民間銀行)と海外投資家(主にヘッジファンド)である。日本の個人投資家は、いまはほとんどカヤの外だ。
日本の個人投資家は、一説に700万人とされるが、ほとんどが、株価が下がったときに買い越すという「逆張り」しかしていない。リーマンショック後は、一貫して、売り越しを続けている。個人投資家の株式保有シェアは、1970年の40%から2018年には17%までに低下している。
公的資金を除いて、機関投資家と個人はリーマンショックでの損失の後、この10年以上、売り越しを続けている。政府系金融は、自分で運用する技術を持っていないので、投資は投資信託に委ねるか、主にETFの売買をしている。日銀は、信託銀行に委託してETFをこれまで年間約6兆円規模で買ってきた。
つまり、このような相場は実体経済を反映するものではない。メディアは株価が上下するたびに、経済情勢、政治情勢と結びつけて、その理由を解説するが、それはまったく無意味である。
では、なぜ日本の株価はNY株価のコピー相場なのだろうか?
それは極めて単純で、ヘッジファンドが買い越すと上がり、売り越すと下がるからだ。ただ、下がっても必ず値を戻し、また上がるのは日銀をはじめとする公的資金が投入されるからである。
統計を見ると、日銀のETF買いが発動されるのは、前場で日経平均が1%以上下がったときが多い。これはそれ以上、株価を下げないための処置だ。こうして、日本の株価はNY株価の動きをなぞって動く。
ヘッジファンドの日本株売買のやり方
東証での株の売買は、現在、1日平均2~2.5兆円規模である。これに対して、アメリカ(NYSE+ナスダック)は、日本の8倍の約1850億ドル(約20兆円)が動いている。この比率は市場にそのまま現れ、ヘッジファンドの東証での売買は7割ほどを占めている。
ヘッジファンドは、ポートフォリオを組み、たとえば株式ではアメリカ株を30%、欧州株を20%、日本株を10%、新興国株を5%というような構成を取っている。これは、各国のGDPにほぼ比例している。株以外に、各国の国債、社債、デリバティブ商品、金先物、原油先物、穀物などにもポートフォリオを組んで投資している。
ヘッジファンドの売買は、ほとんどがプログラムによるHFT(High-Frequency Trading:超高頻度取引)で、1000分の1秒に数十回も取引が繰り返される。ファンドマネージャーはいるが、彼らは売買をせず、数カ月に1度、プログラムを組み直すだけだ。したがって、株式売買はプログラムの構成比どおりに行われる。
たとえば、NY株価が上がれば、プログラム内の構成比も上がるので、自動的に欧州株や日本株も買い増されて、構成比が一定に保たれることになる。下がったときも同じだ。これは、HFTだけに瞬時に行われる。メディアは「世界同時株安」などと騒ぐが、その理由はこんな単純なところにある。もちろん、ヘッジファンドによりポートフォリオは違うが、おおむね、メカニズムはこうである。(つづく)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
この続きは2月19日発行の本紙(アプリとウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。