私は、今回の武漢肺炎(新型コロナウイルス )をわりと楽観視していた。しかし、感染が日毎に広がりパンデミックの様相を呈してきたので、考えが変わりつつある。とくに、日本の状況、アメリカの対応を見ていると、そう感じざるを得ない。このままいくと、日本人はアメリカに渡航できなくなる可能性もある。
もはや「第2フェーズ」に入った感染拡大
「武漢肺炎」(中国ではそう呼んでいる:新型コロナウイルスー=COVIT19)の感染が日毎に拡大している。ここ、数日の状況を見ていると、もはやパンデミック状態になり、楽観視できない状況になっている。
それで、Yahooニュース「個人欄」に、「武漢肺炎で日本人がアメリカに渡航できなくなる日」という記事を書いた。
以下、その記事に基づき、より詳しく今後どうなっていくのかを考えてみた。
私はこれまで、今回の「武漢肺炎」の騒動はいずれ終息する、インフルエンザと同じようようにやがて一般化して、それなりの対応策で落ち着くだろうと考えてきた。心配なのは騒動を大きくすることで、ウイルスそのものに対しては、それほど心配してこなかった。それは、健常者なら感染したとしても発症しないか、発症したとして軽くてすみ、死には直結しないと思ってきたからだ。これまでの報道では、致死率は2%ほどで、WHOのチーフサイエンティスト、スーミャ・スワミナサン氏も「検査を受けた患者の数が増えるにつれ、死亡率は日ごとに低下している」(ブルームバーグの報道、2月12日)と言っていた。
しかし、今日までの日本の状況を見ると、自分の考えは間違っていたと思うようになった。なにしろ、感染者数は日毎に増え、昨日(15日)は、医師の感染が確認された和歌山県の病院で新たに同僚の医師や患者など3人の感染が確認された。明らかに「院内感染」だが、どうして医師が感染したのか、その経路はまったくわからない。
(編集部注:このコラムの初出は2月14日)
東京都でも感染したタクシー運転手が出て、その義母はすでに死亡していた。また、タクシー運転手と同じ屋形船に乗船した8人も感染しており、さらに、名古屋でも沖縄でも感染者が出た。
この事態に、加藤勝信厚生労働相は記者会見で、「これまでと状況が異なっている」と述べ、水際作戦は失敗し、感染拡大が「第2フェーズ」に入ったことを認めざるを得なくなった。
中国政府になにを持ちかけられたのか、対応が甘すぎたWHOのテドロス事務局長も、ミュンヘン安全保障会議で、「流行がどう広がるかを予測するのは不可能だ」と述べる始末だ。
クルーズ船はいまや「第二の武漢」に
昨日、アメリカ大使館からクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の乗客のうちアメリカ国籍者は帰国のためのチャーター便を出すことが発表された。
現在、船に残る約2600人の乗客のうちアメリカ人は416人と日本人に次いで2番目に多く、乗員も12人。このうち、希望者はアメリカ政府が手配したチャーター便により、羽田空港からカリフォルニア州のトラビス空軍基地に送られ、その後、14日間ほど隔離されて検疫を受けるという。
アメリカ政府としては、これまでの日本の対応のまずさに業を煮やしたといえる。
すでにアメリカのメディアは、日本の対応に批判的で、NYタイムズは、専門家の見解として「公衆衛生に関わる危機について、こうしてはいけないと教科書に載る見本だ」と報道している。
アメリカの連邦議会でも、一部議員から「自国民を1日も早く救出せよ」という声が挙がっていた。アメリカでは、すでに日本(クルーズ船)は、「第二の武漢」と言われるほどになっている。
また、2月14日、CNNのインタビューで、CDC(疾病予防管理センター)の所長ロバート・レッドフィールド氏が、「ウイルスはすでに国内に感染拡大の根を下ろしてしまった可能性がある。今後、ウイルスはアメリカでも蔓延し、感染問題は今年中に終わらず、来年まで続くかもしれない」と警告した。
日本人もアメリカに渡航できなくなる
アメリカの感染者は、現在15人である。それなのに大々的な感染防止の処置を取ってきた。
アメリカ国務省は1月31日には、自国民の中国への渡航を禁止した。また、大統領令により、アメリカ入国前14日以内に中国(香港とマカオの特別自治区を除く)に滞在歴のある人間の入国を禁止した。これを受けて、アメリカの大手航空会社は、中国便の運行を全面停止した。
しかし、日本は、湖北省以外からの中国人の入国は認め、また、一部地域を除いて中国への渡航も制限してこなかった。
アメリカ保健福祉省およびCDCは、いま、中国以外のアジア諸国、日本、シンガポール、香港などとの人的交流を規制することを提言しているという。
それが実施されたらどうなるか? 日本人も中国人同様、アメリカへの渡航ができなくなるだろう。これは日本にとって大変な問題である。
中国との人的交流が止まったうえ、アメリカとも止まってしまったら、日本経済は大きなダメージを受けるのは必至だからだ。モノ、カネはヒトとともに動く。ヒトの動きが止まれば、経済の流れもストップする。米中両国に大きく依存している日本にとって、現在、予測されている何倍もの経済的なロスが生じる。(つづく)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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