今回もまた、新型コロナウイルス(COVIT19)について書かざるを得ない。正直、今回ほど自分が生きる国について落胆したことはない。政府の対応は後手後手であり、国民の危機意識は低いままだ。その結果、いまだに、ほぼなにも進んでいない。このままだと、気がついたら感染者ばかりという状況になりかねない。
東日本大震災のときとはまったく違う
昨日(3月1日)、快晴の日曜日、東京マラソンが最高のコンディションのなかで行われた。五輪の最終選考枠1人に入るため、大迫傑選手は激走し、なんと日本新記録でゴールに飛び込んだ。素晴らしいレースだった。(編集部注:このコラムの初出は3月2日)
しかし、テレビ中継を見て、私はずっと嫌な思い、不安感に苛まれた。というのは、一般ランナーの参加を取りやめ、沿道での応援も自粛という措置が取られたにもかかわらず、沿道には人だかりができていたからだ。
「人が集まるところには行かない」というのが、新型コロナウイルスに感染しないため、また、感染させないための“最善の方策”ではなかったのか?
同じ日の朝、日本各地のスーパー、ホームセンターではトイレットペーパーやマスクを買い求める人々で長蛇の列ができていた。埼玉県のあるスーパーでは開店と同時に人々が殺到し、トイレットペーパーは5分で売り切れた。
トイレットペーパーはすべて国産であり、在庫が十分にあるとアナウンスされているにもかかわらず、この騒ぎである。
そして、今日(3月2日)、テレビのワイドショーでは、電車内でマスクをつけずに咳をしている男が、ほかの乗客から文句をつけられ、けんかになった映像が流されていた。
東日本大震災のとき、パニックにならずに整然と行動し、お互いに助け合う日本人の姿が世界から称賛されたというのに、今回はまったく違う。人々は不安から、自分勝手な行動に走っている。
これでは、感染は拡大するばかりではないか。
感染者は発表の
少なくとも10倍はいる
日本の感染者数は、いまのところ少ない。韓国やイタリア、イランがあっという間に1000人を超え、今日のデータ(ジョンズホプキンズ大学のサイト:The Johns Hopkins Center for Health Security) によると、ドイツやフランスでも100人を超えた。
しかし、こうした数字と日本の数字を比較するのは意味がない。なぜなら、イタリアをはじめとする各国は感染者が出てから徹底したPCR検査を行なってきたからだ。ところが、日本はいまだに1日、1000件以下。韓国が1日1万3000件も行なっているのに比べ、圧倒的に少ない。
つまり、検査数が少ないから感染者数が少ないだけなのである。
信頼すべき筋によると、日本の潜在感染者数は、発表されている数の少なくとも10倍になるという。検査拡大を訴えてきた白鴎大学の岡田晴恵特任教授(元厚労省、国立感染症研究所研究員)は、先週のテレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」で、「数万人はいる」と述べていた。しかも、その翌日、彼女は「昨日、数万人と言ったら、先輩の専門家から電話があり、そんな数ではないと言われました」と述べた。
海外旅行の禁止さえ
打ち出せない政府
私は、先週、「Yahooニュース個人」欄に、4本の記事をアップした。そのなかで、「日本は一刻も早く国民の海外渡航を禁止せよ」と訴えた。というのは、アメリカがすでに日本の渡航警戒レベルをレベル2(注意強化:Exercise increased caution)にしているからだ。よって、このレベルがさらに引き上げられる前に、日本が自ら渡航禁止にしなければ、日本への信頼が損なわれると思ったからだ。
すでにダイヤモンドプリンセスの感染防止失敗により、日本は「第二の武漢」と言われるまでになった。これは、本当は英米メディアによる責任のすり替えだが、もはやそう言われてしまった以上、どうしようもない。本来の責任は、船籍を持つ英国、運営会社があるアメリカにあるのに、日本人客が多いばかりに日本政府は寄港を認め、検疫引き受けてしまった。検疫などたいしたことがないだろうと思った政治判断が間違いだったのだ。しかし、この判断ミスはいまとなっては取り返せない(注:このことは、次回に詳しく述べたい)。
よって、「第二の武漢」「洋上の培養器」(NYタイムズほか)という汚名は受け入れざるを得ない。
となれば、これ以上海外から汚名を着せられないためにも、日本人が海外に出ることを自ら制限しなければならない。そうしないと今度は、英米メディアに、「ウイルスを撒き散らしている」と非難されるだろう。これは、絶対に避けなければならない。
それなのに、いまだに日本政府は海外旅行の禁止さえ打ち出していない。中国は、武漢を閉鎖した後、1月25日の時点で、国民の海外旅行を禁止した。これを受けて、1月27日、アメリカ国務省は渡航情報を1段階引き上げてレベル3(渡航考慮:Reconsider travel)にし、2月1日はレベル4(渡航中止:Do not travel)にした。日本が、レベル3、レベル4になるのは、時間の問題だ。
ところが、こうした私の警告に対して、一部のネット民から、こんな声が発せられた。
「なにを言ってるんだ? このジジイは」「思考の浅さが見えるような内容ですね」「そんなことより、中国人の全面入国禁止が先だろう」
日本人の一部が、とくに右寄りの若者たちが「日本はすごい国」という洗脳を受け、日本人至上主義を持っていることに、本当にがっかりする。
(つづく)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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