連載318 山田順の「週刊:未来地図」 東京五輪絶望、感染拡大、不況突入…(第一部・中) 新型コロナウイルスから命とお金を守るには?

海外にいる日本人の落胆ぶりはひどい

 すでに、多くのアメリカ人が日本渡航を止めている。アメリカ企業は社員に「日本への出張を見合わせろ」と指示している。知り合いのウオール街の金融機関の人間も、日本の金融機関との打ち合わせに東京に来る予定だったが、キャンセルした。NY在住の私の娘も、日本への一時帰国をキャンセルした。
 この4月、私の旧知のサンフランシスコ在住の日系人は、妻(アメリカ人)と帰国する予定だった。そこで、「久しぶりに東京で会って飲みましょう」と言っていた。ところが、妻から「いまの日本になんか行けない」と言われて断念した。先週、サンフランシスコは緊急事態宣言をし、カリフォルニア州では感染者が確認された。
海外にいる日本人は今回の日本の対応のまずさを見て、私以上に落胆している。その心境を思うと、本当に無念としか言いようがない。なにしろ、今回のことで肩身が狭いうえ、一部では、日本人が白眼視されようになってしまったからだ。
英国のパブリックスクールに子供を留学させているある親は、学校側から「学期末のカンファレンスに来ないでほしい」と通知された。また、子供も学校側から「休みに日本に帰国するなら、学校に戻ることは認められない」と言われたという。
海外在住の日本人は誰もがいま、自分の国がこれほどひどいとは信じたくないと思っている。しかし、日本の実態は、まぎれもなくひどい。このままでは、母国愛、祖国愛までが失われる。
 しかし、国内にいる人々は、そんなことをまったく感じていないように思える。

いまの渡航警戒レベルでは五輪は絶望

 いまや、東京五輪が開催できるかどうかの瀬戸際にきている。政府もメディアも、関係者の発言に一喜一憂して、先週はその報道があふれた。
そんななか、IOCのバッハ会長が、「日本は真剣に取り組んでいる」とし、予定通り行う意向を示したことに、政府もメディアほっと一息ついているように見える。
しかし、私に言わせれば、五輪が開催できるかどうかは、ひとえに日本の今後の感染防止の取り組みにかかっている。それがうまく機能して、感染拡大が4月末までに止まればなんとか開催はできるだろう。
ただし、開催できるかどうかの引き金を引くのは、IOCの意向などより、アメリカの渡航警戒情報である。日本のレベルが引き上げられれば、選手はおろか観光客まで来ない。現段階のレベルでも無理だ。
 よって、警戒レベルが引き上げられたとしても、それがいつ解除されるかがいちばん大きな問題になる。はたして、今後、それがいつになるかは、現状ではまったくわからない。
 中国の習近平国家主席の来日が問題視されているが、これも警戒レベルが引き上げられれば、中止せざるを得ないだろう。日中の外交的思惑や国内世論とは関係ない。
それなのに、国内では、無用の議論が続いている。

具体策なく用意された質疑だけの首相会見

日本の感染拡大がここまでひどいことになったのは、政府の対応のまずさにあるのは明白だ。
 先週の土曜日(1月29日)、安倍首相は初めて記者会見を開き、国民に呼びかけた。そして、小中高校などのいっせい休校に踏み切った判断への理解を求め、「政府の力だけでこの戦いには勝利できない」と精神論を強調した。
これではまるで戦時中の日本政府と同じではないかと、私は思った。首相の言葉に心に響くものはなく、決意のほども感じられなかった。しかも感染防止の具体策に乏しかった。
 小中高校などのいっせい休校では、対策としてはおおまかすぎる。国内の人の移動を制限するため、観光旅行の中止、あるいは一部感染地域の封鎖など、もっと具体的でないと効果はない。ただし、そうした措置も、感染者の実数がわからなければできようがない。クラスター(集団感染)のホットスポットがどこかわからないのでは、指定しようがない。ただ1つ具体案として、安倍首相は、PCR検査の拡大に触れたが、いつから実施するかは明言を避けた。
 しかも、首相記者会見は、これまでとまったく同じで、あらかじめ用意された質疑応答のなかで行われた。首相は自分の言葉ではなく、原稿を読んだだけだ。そして、正味30分ほどで「時間が来ました」と打ち切られた。
 江川紹子氏が「まだ質問があります」と手を挙げたが、無視されて、首相はそそくさと退場。報道によると、首相はそのまま自宅に帰ったというからあきれるしかない。
首相は、「決断した以上、私の責任で万全の対応を取る」と述べたが、万全の対応がなにかはまったくわからない。国民の疑心暗着はつのるばかりとなった。
今日判明したことだが、小中高校のいっせい休校は、ほとんど安倍首相個人の思いつきのウケ狙い。菅官房長官は大反対したという。しかし、側近の北村滋国家安全保障局長と2人で押し切ったという。
(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

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