感染拡大の責任はメディア側にもある
ここまでの感染拡大が“人災”としたら、その責任は政府ばかりにあるのではない。メディアにも大きな責任がある。政府と馴れ合うメディアが、感染拡大の事実を歪め、日本人に危機意識を植え付けなかった。
書くまでもないが、日本の記者会見は報道機関の記者たちで組織された記者クラブが仕切る。記者クラブでは、あらかじめ質問事項が決められ、それが官庁に提出される。
よって、質疑応答はほぼ出来レースとなる。
したがって、これまでの厚労省の記者会見では、なぜ検査数が少ないのかという問題は取り上げられず、政府はメディアから追及されなかった。こうした政府の不手際を指摘してきたのは、すべて記者クラブに属さないメディアやフリーのジャーナリストばかりだ。
厚労省の官僚たちは、これまでの「薬害エイズ問題」「消えた年金問題」でもわかるように、省益しか頭にない。今回のPCR検査でも、特定業者と結託して、ほかの検査機器を使わせなかった。また、厚労省傘下の国立感染症研究所は、感染データを自分たちで独占したいがために、民間の検査の導入を阻んだ。
加藤厚労大臣は、こうした厚労省から上がってきたデータを読み上げただけの会見に終始した。
いまだに厚労省は、ダイヤモンドプリンセス での検疫を「適切だった」と言っている。
厚労省記者クラブの記者たちが、国民の側に向いた報道ができないのは、彼らが専門知識も見識もないことにもある。彼らは、社の意向により単に厚労省担当になっただけ。これは、どの記者クラブでも同じだ。
だから常に「厚労省によると」「専門家によると」という記事しか書けず、その「よると」が信頼がおけないのだから、どうしようもない。
今後とも政府発表の情報は割り引くか、あるいはまったく信じないほうがいい。
信頼できるのは3人の専門家だけ
PCR検査がほとんど行われていないことを報じ、一刻も早く導入せよと訴えてきたのは大手メディアでは、テレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」だけだ。テレ朝報道局の玉川徹氏は、連日、コメンテーターに現場を熟知し、見識が高い専門家を呼んで、これを訴えた。
前記した岡田晴恵氏、感染症専門医の池袋大谷クリニックの大谷義夫氏らの指摘は的確だった。私は連日、「羽鳥慎一モーニングショー」を見続けた。
彼らが検査拡大を訴えるまで、政府はガイドライン(発熱37.5度以上、4日間以上)を設け、それ以外の人々の検査を受け付けなかった。よって、検査拡大は政府批判になるので、多くの専門家が口を濁した。なかには「医療崩壊になるから、軽い症状ではなるべく病院に行くな」と言った専門家もいた。
しかし、検査をしなければ、診断はできず、診断ができなければ治療はできない。
先週の金曜日の「羽鳥慎一モーニングショー」では、玉川徹氏が上昌広・医療ガバナンス研究所理事長をインタビューし、「(政府のやり方は)は言語道断」だというコメントを引き出した。
私がこれまで見たなかで、この上昌広氏と、前記した2人がもっとも的確で、信頼できる判断をしている。
聞き飽きた当たり前の専門家の見解
先週、NY株をはじめてとして、世界中の株価が大暴落したことで、新型コロナウイルス問題は一気に深刻な経済問題となった。もはや今後、深刻な不況がやってくるのは確実だ。
こうなると、私たちは自らの命を守るとともに、どうやって暮らしていくかも考えなければならない。命とお金を守っていかなければならない。
しかし、この問題に対しての回答は私の能力を超えている。現在、専門家がいろいろなことを言っている。医療に関しては、その分野の専門家の見解は参考にはなる。ただそれにしても、「人混みに行くな、よく手を洗え、外出は控えろ」などだから、そんなことは言われなくもわかる。
次は、経済専門家のデータに基づく予測だが、これはまったく意味がない。なぜなら、彼らは各種経済指標の落ち込み、株価の動向などを見て、当たり前のことを言っているにすぎないからだ。「GDPが何%落ち込むから~こうなるだろう」「中国を中心としたサプライチェーンの停滞の影響をもっとも受けるのは日本」という話は、もう聞き飽きた。
では、どうしたらいいかと聞かれれば、「感染者拡大が止まり、WHOが終息宣言を出すまで耐えるしかない」と誰もが答えるほかないはずだ。(つづく)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
この続きは3月11日発行の本紙(アプリとウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。