連載327 山田順の「週刊:未来地図」新型コロナパンデミックの 収束と米中覇権戦争 (上)

 新型コロナウイルスのパンデミックが起こる前、世界がもっとも注視していたのは「米中覇権戦争」と「アメリカ大統領選挙」だった。この2つが今後の世界情勢と世界経済を占ううえでもっとも重要とされていた。
ところがどうだ? いまはコロナ一色である。
 しかし、米中覇権戦争は、新型コロナウイルスの感染拡大が進むなか、いっそうエスカレートしているのだ。そして、この覇権戦争の勝者がどちらになるかで世界は大きく変わってしまうのである。

ゴールドマンサックスの顧客向けレポート

 新型コロナウイルスのパンデミックにより、世界は未知の領域に突入した。すでに2カ月にわたって経済は減速を続けているので、これが長引けば、ITバブル崩壊やリーマンショックなどをはるかに超えるリセッションになる。
 いまや誰もが、今後どうなるかわからない不安のなかにいて、「将来予測」を欲している。
 そこに先週、飛び出したのが、ゴールドマンサックスの顧客向けレポートである。
それによると、アメリカでは国民の半数が感染し、2カ月後の5月半ばに感染がピークになる。
 新型コロナウイルスは、従来の風邪と同様、北緯30~50度に発生が集中しており、寒い気候を好む。夏に少し収まるだろうが、冬には再発する。ただし、感染者のうち80%は無症状か軽症で回復し、15%が中程度の症状、5%が重症になる。重症は高齢者に集中する。
 こうして、アメリカでは300万人が死ぬが、この死者数はアメリカの例年の年間死亡者と変わらない。死者が倍増するのではなく、もともと死にそうな人が新型コロナウイルスで死ぬのだから、死因が変わるだけで、全体の死者数はあまり増えない。ざっとこのような内容である。
 このレポートの注目点は、死者数に関してで、「もともと死にそうな人が新型コロナウイルスで死ぬ」としていることだ。世界最高の死者数を記録したイタリアの死亡者の平均年齢は79.5歳である。しかも高血圧、糖尿病などの持病を持った人がほとんどだった。ということは、この人たちはあと数年から10数年の間に死んでいく人たちで、新型コロナウイルスが死期を早めただけだ。

国民の半数が感染するのに何日かかるか?

 どちらかというと、ゴールドマンサックスのレポートは楽観的である。2カ月後にアメリカ国民の半数が感染し、そのときはみな抗体を獲得しているのだから、感染は収束するとしている。
 ここで言う「収束」は「終息」ではなく、「収束」である。ウイルスが撲滅されて終わる「終息」ではなく、感染拡大が収まっていく「収束」だ。したがって、収まっていくとともに、経済は回復していくという。
しかし、アメリカ国民の半数が感染するとしたら、その数は約1億6000万人である。ドイツのメルケル首相も英国のジョンソン首相も、国民の半数以上が感染するという警告を発したが、そんなことが起こり得るだろうか?
 専門家の警告も「人類の6〜7割が感染し、そのうち1~3%が死ぬ。感染のピークは5~6月になる」というものが多い。
 そこで、現時点(3月23日)でアメリカで確認された感染者数は3万2148人だから、この10倍の約32万人が実際の感染者(無症状、軽症で検査を受けてない)としてみよう。これはアメリカの全人口約3億2000万人の100分の1(1%)に当たる。
 では、この1%が50%(国民の半数)になるのに、どれくらい時間がかかるだろうか? 仮に1日に確認される感染者が5000人(実際感染者5万人)ずつ増加していくとして、3200日(約8.7年)かかる。つまり、あと2カ月で国民の半数が感染するというのは信じ難い。感染が倍々ゲームとしても、あり得ない話だ。
 ただ、これまでを見ると、以下のように指数関数的に増加しているので、半年ぐらいかかればあり得るだろう。

《アメリカの感染者の推移》
・2月20日 15人
・2月29日 68人
・3月05日 221人
・3月15日 3680人
・3月23日 3万2148人

 つまり、こうした「人類の6〜7割が感染する」が本当だとしても、それが実現するのは2、3カ月先ではない。もっとずっと先だ。よって、こうした警告は、専門家と為政者が国民を鼓舞するために、わざと強調していると考えるべきだろう。
 日本にしても、現在(3月23日)確認された感染者数は世界に比べて圧倒的に少なく1089人である。実際の感染者がその10倍とし、1日に1000人ずつ増えるとしたら、感染者が国民の半数に達するのに6万日(164年)もかかってしまう。ただ、日本のいまの感染者数は、検査の件数を絞りに絞った結果なので、なんとも言いようがない。
(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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