連載328 山田順の「週刊:未来地図」新型コロナパンデミックの 収束と米中覇権戦争 (中)

編集部からのお知らせ
 3月27日に掲載した記事について、ニュージャージー州在住の分子生物科学者の塩井純一さんからご指摘を受けました。山田さんは現在、心臓の手術のため集中治療室に入院されており、訂正原稿を書くことができません。山田さんと塩井さんの了承を得て、次に塩井さんの投稿を掲載します。塩井さんのご指摘どおり、訂正してお詫びいたします。

山田順様
 Daily Sun New Yorkの連載327を読みました。恐らく他の読者からも指数関数理解の間違いを指摘されているとは思うのですが、私も一目おくジャーナリストの山田さんが理解されていないということは一般の読者はなおさらだと思いますので、ぜひ訂正してください。
 記事中の「アメリカの感染者数の推移」を見てみますと、2月29日以降、10日間で約10倍に増えています。ということは20日間で100倍、30日間で1000倍、40日間で1万倍です。したがって3月23日を起点とすると40日後の5月1日に3億2148万人となります。
 私は分子生物学者として若いころ毎日細菌を培養していましたが、大腸菌やサルモネラ菌などの細菌は、まさにこのように増殖していきます。大腸菌は研究室の最適培養条件で20分に1回分裂し1個体が2個体になります。40分でその2倍の4個体、60分でさらに2倍の8個体、80分ではその8個体の2倍の16個体と繰り返し、1日足らずで億どころか兆、京のオーダーにまで増えるのです。これだけ増えるので稀な突然変異も引っかかってくるのです。
 今回の記事の間違いは本筋に関係しているのでぜひ訂正してください。この倍、倍、倍で増えていくことの恐ろしさをぜひ読者に理解させてください。今回のパンデミックは人類史的危機ですが、この地球上の全人類を構成するわれわれ1人ひとりが危機感を共有し、責任ある行動ができるのなら抑え込めるのです。

塩井純一
ニュージャージ州より

感染拡大が収束するための3パターン
 いま、世界は新型コロナウイルスの感染拡大の収束とともに経済再開に向けての「出口戦略」を模索している。いったんロックダウンしたはいいが、これをずっと続けるわけにはいかない。そのために、5〜6月ピーク説が言われたのかもしれない。
 ただし、あいまいなままロックダウンを解けば、第二次感染爆発が起こる可能性もある。また、アメリカや欧州が一段落しても、遅れてアフリカなどが感染爆発するリスクもある。
 そこで、この大混乱からの抜け出す方法を考えてみると、次の3つに絞られるだろう。
(1)人類の相当数が感染して抗体を持つ(一般的に集団の半数以上が抗体を持てばウイルスの感染は収束する。「集団免疫」の理論)
(2)人類社会のあり方をこれまでと変える(資本主義システムをやめ社会主義システムに転換。経済発展より人々の暮らしの安定と安全を維持するシステムにする。ベーシックインカムなどの導入)

(3)ウイルスに効く薬やワクチンを開発する
 このうち(1)は、前記したように時間がかかる。感染を抑えつつ、規制を解除し、感染が増えたらまた規制をするというようにやっていくとしたら、さらに時間がかかる。感染が倍々ゲームとしても、集団免疫ができ上がるまでに、多くの人が死ぬだろう。
 英国のジョンソン首相は、当初、「じっと耐えて感染症の自然の成り行きにまかせる」と、この戦略を取ろうとした。しかし批判を浴び、英国の政策は揺れている。
(2)は、人類のこれまでの発展の歴史を否定することになるので、踏み切る国はないだろう。よって、(3)がもっとも最適な“解”だが、これにも時間がかかる。
 現在、治療薬は既存のものが世界各国で試されているが、新薬の開発は簡単にはできない。また、ワクチンも開発段階入りしているが、治験などをすっ飛ばしても1年はかかるだろうといわれている。

経済危機、金融危機は米中どちらに有利か?
 結局、5、6月をめどに、それを過ぎた時点で感染拡大がある程度収まったとしたら、見切り発車で経済再開に入らないと、いまの世界はもたない。
 ただし、世界のGDPは、すでに前年比で20〜30%は減少してしいるので、感染拡大前までの状態に戻すことは不可能だ。というか、落ち込みは再開後もずっと続き、向こう1年間は大不況が続くと思って間違いない。
 もちろん、新型コロナウイルスの感染状況次第だが、最悪のケースでは、1929年の「大恐慌」に匹敵する危機となるだろう。政府からの救済が切れた企業から倒産が始まり、債務不履行が多発する。もう始まっている社債やジャンク債の金利の高騰が激しくなり、金融機関の倒産が起これば、世界の金融システムが崩壊しかねない。これは、ドルによって担保されているアメリカの世界覇権の後退を招く。そのため、アメリカはドルを刷って、世界中に供給するだろう。
 この間隙を中国が突いてくる可能性がある。なぜなら、現在の中国発の報道が事実なら、中国はいち早く感染拡大から抜け出しているからだ。
 米中の貿易戦争(実際は覇権戦争)は、昨年暮れに一段落、休戦に入った。しかし、この休戦協定(第一段階の合意)をアメリカが履行できなくなる可能性が言われ出している。中国製品に課した関税にコロナ不況が追い討ちをかけ、中小事業者を中心に深刻な経営不安が起こっているからだ。
 現在、中国からの輸入品には、関税分が上乗せさせられている。そのため、輸入業者はコスト負担が重くなる。米アパレル靴協会は、すでにトランプ政権に関税撤廃を要求している。もし、関税撤廃などということになれば、中国の製造業は大復活するだろう。
(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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