連載329 山田順の「週刊:未来地図」新型コロナパンデミックの 収束と米中覇権戦争 (下)

中国が始めた「マッチポンプ」戦略

 新型コロナウイルスを発生させ、それを世界にばら撒き、世界中を危機に陥れたのは中国である。その中国が、いち早く危機を脱し、なにを勘違いしたのか、今度は「世界は中国を見習え」と言い出した。トランプが新型コロナウイルスを「チャイナウイルス」(China Virus)と呼ぶと、北京は激しく反発した。
 いまや、中国は自分たちの責任には「ほっかむり」である。この姿勢に、ポンペオ国務長官は、以下のように非難したが、アメリカも感染拡大を招いた以上、「後の祭り」かもしれない。
 「武漢ウイルスに最初に気がついた政府は中国である。その事実により、困難でいままで存在しない問題が発生し、リスクがあることを周知する特別な責任が生じたのだ。世界が中国国内にあるリスクを知るまでには、不愉快なほどの長い時間を要した」(ポンペオ国務長官)
 中国はじつにしたたかである。転んでもタダで起きない。いまや中国は「世界を助ける」と言い出し、イタリアやスロベニアに医療チームを派遣し、ウイルス検査キットやマスクなど大量の医療物資を送った。イタリアは、中国に頼らねばならないほど危機が深刻だ。
 しかし、このような中国のやり方は、どう見ても「マッチポンプ」である。自分で火を点けておいて、世界を延焼させ、今度は火を消してあげるというのだから、こんなバカな話はない。
 しかも、中国が先に経済を回復させ、世界の回復が遅れれば、世界のモノの供給を中国が一手に握ることになる。アメリカと欧州がロックダウンしているなかで、中国の産業が復活すれば、米中覇権戦争の形勢は逆転しかねない。

実力をつけ市場を握った中国の製薬企業

 新型コロナウイルスのパンデミックが起こる前まで、米中覇権戦争は圧倒的にアメリカが優勢だった。ところが、いま、中国に形勢を逆転するチャンスが訪れた。
 アメリカがウイルスに手を焼いているうちに、世界に中国発(ファーウエイなど)の5G網を張り巡らすことが可能になったからだ。
 また、半導体や電子機器、自動車産業なども、先に回復してしまえば、その後は一定のリードが保てる。
 そして、なによりも大きいのは、新型コロナウイルスの治療薬、ワクチンの開発だろう。これに成功すれば、その恩恵は計り知れない。もし、中国が真っ先に開発に成功すれば、以後、世界は中国に頼らざるを得なくなる。そのため、現在、水面下で熾烈な治療薬、ワクチンの開発競争が行われている。
 じつは、アメリカは(世界のほかの国も)、中国の医薬品に依存しているところが大きい。中国は産業政策「中国製造2025」の重点分野の1つとして、医薬品分野の強化を図ってきた。その結果、中国の医薬品産業は、近年、急成長し、特に抗生物質や医療品有効成分(API)、ジェネリック薬などの世界市場で高いシェアを占めるようになった。
 現在、中国の製薬会社はアメリカ市場において、抗生物質で8割以上、解熱鎮痛薬「アセトアミノフェン」の7割以上のシェアを占めているというから驚きである。
 こうして実力をつてきた中国の製薬会社は、今回、全リソースを投入して、新型コロナウイルスの治療薬、ワクチンの開発に乗り出しているのだ。
(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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