スウエーデンが取った「集団免疫」獲得戦略
緊急事態宣言が出たとはいえ、いまの日本がやっていることは、ニューヨーク、パリ、ロンドンとは違う「ゆるゆるロックダウン」である。
こんな中途半端なロックダウンがはたして効果があるのか? それは、今後、必ず答えが出る。
そこで、書いておきたいのが、北欧のスウエーデンの例だ。スウエーデンは欧州主要国のなかで、これまで街をロックダウンせず、小学校も飲食店もいつも通りにオープンさせてきた。つまり、国民の行動制限をせず、あくまで自主性に任せてきたのである。
これは、当初、英国が取ったやり方で、治療薬とワクチンができるまでは、感染をゆるやかに広げていってかまわない。そのうちに国民の半数以上が感染して、ウイルスが宿主を見つけられなくなる「集団免疫」(herd immunity)ができれば、感染拡大は収束するという戦略である。
しかし、日毎に死者が増えるなかで、この戦略を取ることは耐えられず、また、科学界からも猛反発され、英国はロックダウンに入った。
「検査の徹底」と「感染者の隔離」しか、感染拡大は防げないと結論したのである。
しかし、スウエーデンはいまもなおロックダウン戦略を採用していない。ただ、4月に入ってから死者数が毎日100人以上出たため、専門家からも政府批判が相次ぎ、政府は封鎖措置の検討に入ったと、現地メディアは伝えている。
ところが、日本は戦略的に「検査の徹底」と「感染者の隔離」政策を取らなかったのではない。だらだらとなにもせずに1カ月を無駄にしたのだ。さらに、東京オリンピックが延期されても、まだ本気にならなかった。そして、とうとう緊急事態宣言を出したが、これも都市封鎖とは違う中途半端な政策で現在に至っている。
これでは、結果は火を見るよりも明らかだろう。
感染爆発が続く「日本一人負け」の近未来
ここで、感染拡大防止政策のパターンをまとめてみよう。これまで、各国が行なってきた政策を見ると、次の3パターンがあるのがわかる。
(1)完全封鎖(フル・ロックダウン)戦略
これは、中国の武漢がとった政策。都市を完全封鎖し、内部と外部の交流を断ち、さらに都市内部でも住民の行動を封鎖する。中国の報道が正しければ、これで武漢のコロナ禍は2カ月半で収束した。
(2)行動規制、地域ロックダウン戦略
イタリア、スペインに始まり、アメリカのニューヨークや英国のロンドンなどで取られた都市ロックダウン戦略。ソーシャル・ディスタンシング(社会的距離)を守らせ、イベントや集会の禁止、学校の休校、飲食店の閉鎖、会社への出勤停止などで、都市内、地域内を封鎖した。
現在、ほとんどの国がこの政策を取っているが、まだ確実な結果は出ていない。
(3)集団免疫獲得のためのスロー・ロックダウン戦略
当初、英国が、いまスウエーデンが続けている、ゆるやかな制限のみのスロー・ロックダウン戦略。どちらかといえば、日本はこれと(2)の中間に入る。
(4)ロックダウンに至らない「徹底検査&クラスター追跡」+「感染者隔離」戦略。
この方法は、アイスランドや台湾で成功したと言える。韓国も、現場から成功していると言えるだろう。
なお、以上、4パターン以外に「なにもしない」(あるいは「できない」)という、発展途上国の問題がある。よって今後は、先進国の感染拡大が収束に向かっても、アフリカや中南米などの発展途上国の感染拡大は続いていくと思われる。
ただし、それを見越しながら、現時点で言えるのは、あまりに中途半端な日本が、今後、本当に「焼け野原」になり、ニューヨーク以上の惨状になることだ。
ウイルス発症地の中国がいち早く収束に向かい、今後、アメリカと欧州諸国がロックダウンの成果から収束に向かう。そんななか、日本だけが各国に遅れて、途上国と同じように感染爆発を続ける。そういう、先進国のなかで「日本一人負け」の近未来が見えてくる。そうなってほしくないと願うが、願うだけでは未来は変えられない。
ついこの間まで、日本は感染者が少ないから「完全なかたちでオリンピックを!」などと言っていた安倍首相や小池百合子・東京都知事。そして、まったく役に立たない答申を続けた専門家委員会。
彼らがいまなにを言っても、いまさら聞く気にもならないというのが、日本国民の正直な気持ちではないだろうか。
(了)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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