連載340 山田順の「週刊:未来地図」止まらない「コロナ禍」への数々の疑問。 これまでの情報を整理する(第二部・中)

(11)フィンランドのロックダウンに学ぶ
 フィンランドもまた、感染封じ込めに成功しつつある。娘の夫がフィンランド人なので、この国の防止策に、私は早くから注目してきた。
 現在、フィンランドはロックダウンされ、外国人は入国すると2週間の「自主隔離」(selfquarantine)が義務付けられている。
 フィンランドで最初の感染者が見つかったのは1月末、ラップランドを旅行中の中国人だった。だから、多くの欧州諸国と同じく、危機意識は薄かった。しかし、2月26日にイタリアからの帰国者1人が感染していたことが判ると、翌27日、34歳、世界最年少の女性首相サンナ・マリンはただちに動いた。そして、検査体制を整えることに奔走した。
 最初は増えなかった検査数は、じょじょに増え、3月下旬まで1日500〜1000件程度だった検査数は、4月には1日最大2500件まで拡大した。現在、日本の1日の検査数は4000〜5000件(4月15日までの過去1週間)である。フィンランドの人口は約550万人で、日本の約23分の1。それを考えると、日本の検査数は異常に少ない。
 フィンランドでも「緊急事態」が宣言された。緊急事態法案がつくられ、3月16日から段階的に発令された。それとともに、集会の禁止、学校の休校、公営施設の閉鎖などの段階的ロックダウンが行われ、外国人の入国制限も実施された。そして、3月28日、首都ヘルシンキを含むウーシマー郡と他地域との移動が禁止された。そして、3月31日には、飲食店、バーなど営業が禁止され、ヘルシンキ首都圏は完全なロックダウンに入った。
 もちろん、所得補償、休業補償も行われた。
 ロックダウンで大事なのは、封鎖地域内の外出禁止と他地域との移動の禁止である。日本では、これが行なわれていない。やっと全国規模に提供が拡大されたとはいえ、日本の緊急事態宣言は有名無実だ。いま、フィンランドのロックダウン効果は、確実に出ようとしている。

(12)「コロナ疎開」「コロナ脱出」は有効か?
 東京や大阪は4月7日の緊急事態宣言後、ゆるゆるのロックダウン状態に入った。ただ、いくら自粛要請とはいえ行動の自由は失われ、おまけに感染リスクも増加した。そのため、大都市圏からの「コロナ疎開」「コロナ脱出」が起こった。
 地方出身者の地元帰りはもとより、一時期的に地方に移住する人々も多くなった。各地の別荘地で滞在者が増え出した。栃木県那須、長野県軽井沢などに、東京から移動した富裕層は多い。緊急事態が全国に拡大されたとはいえ、強制力がないのだから、この動きは止まらないだろう。
 すでに2カ月も前に、私は富裕層の「コロナ疎開」を記事化して「Yahoo」に書いた。当時は、カリブ海のリゾートなどへの移動だったが、ニューヨークで感染が拡大すると、都市部からロングアイランドの別荘地、サウサンプトン、イーストハンプントン、ナンタケット・アイランド、マーサズ・ヴィニヤードなどへの移動が起こった。これらの地域の貸別荘の価格は暴騰した。
 アメリカ政府は、ウイルス感染拡大リスクの高さにしたがって、全米50州を高・中・低でランク付けした。これによって、さらに多くの富裕層が都市部を離れ、感染リスクの低いノースダコタ、モンタナ、アイダホなどに移動した。
 こうなると、都市部にロックダウンで取り残された中流以下の層は怒る。「金持ちの行動を止めろ」と、ネットに怒りが溢れた。なかでも、デヴィッド・ゲフィン(ドリームワークスの共同創業者)が、カリブ海に浮かべた豪華クルーザーで優雅な避難生活を送っている姿インスタに投稿すると、罵声が浴びせられ、即座に炎上する事態となった。
 そこで、私は考える。そうはいっても、逃げるが勝ちではないか。十分な資金があれば誰だって、感染リスクを避け、コロナ禍が収束するまで避難生活を送るだろうと—。
 しかし、今回のコロナ禍は、経済、社会活動を停止させてしまうという大きな犠牲を伴うので、避難している間に、社会と経済が崩壊してしまうというリスクがある。感染状況が長引き、収束後の世界がいままでと違う世界になってしまえば、自分だけ生き残っても仕方ないのではないだろうか。
 また、とくに日本の場合は、地方に行くほど医療体制が貧弱になるので、万が一感染するとかえって厄介なことになる。
 いずれにせよ、富裕層なら「自分だけ助かればいい」という行動はすべきではない。それに、もっとも安全なのは「自宅」であり、家を出ないこと。これだけが正しい選択ではないだろうか。
(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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