連載342 山田順の「週刊:未来地図」止まらない「コロナ禍」への数々の疑問。 これまでの情報を整理する(第三部・上)

 連日「コロナ禍」の情報を整理して配信してきましたが、今回は最終回。主に経済的な側面から考察する。
 もはや、1929年の「世界大恐慌」(Great Depression)以来の大不況に突入するのは確実だ。しかし、谷が深ければ山も高くなる。回復というか、正常化は劇的になると言われている。本当だろうか?
 世界経済、日本経済の現状から今後を展望してみます。

(15)命か経済か。なぜ二者択一の議論になるのか?

 緊急事態宣言が発出されて以来、日本では「命か経済か」という論議が続いている。政府が経済を優先し、国民生活(つまり命)への配慮が足りないと思われているからだ。
 しかし、これは二者択一の問題ではない。生きることと経済生活をすることは、まったく同じことだからだ。人間、生きていなければ、経済もへったくれもない。
 コロナ禍に関して経済の話をすると、命よりカネが大事なのかと非難される。しかし、カネがなければ命は救えない。食べるのにも、医療にもカネがかかるからだ。
 よって、ここで言う経済とは、これまでどおりの経済活動をなんとか続けるという話ではない。最低限の経済を維持して、まずは徹底して、コロナ禍から人々を救うということだ。そのためにはカネがいる。
 ロックダウンのような徹底防止策を続けると、やがて大きな壁に突き当たる。とくに日本の場合、もうしばらくすると、医療崩壊によりほかの病で治療を受けられない人が続出する。失業し、生活の糧を失う人が出る。さらに、自殺する人も出てくる。家をなくし、離婚する人も増えるだろう。すでに、内定取り消しで就職できない若者が出ている。こういう人々は、医療では救えない。救えるのはカネだけだ。政府がなぜカネを出し渋るのか、本当に不思議な国に、私たちは生きている。
 当たり前だが、これまで人類は、経済の繁栄によって、飢餓、貧困、病気を克服してきた。その経済が崩壊してしまえば、コロナ禍の犠牲者を大きく上回る数の人々が命を落としてしまう。

(16)新型コロナとの戦いは戦争なのか?

  今回の新型コロナウイルスとの戦いは、戦争にたとえられることが多い。フランスのマクロン大統領は「われわれは戦争状態にある」と述べ、アメリカのトランプ大統領は「自分は戦時の大統領だ。この戦争に打ち勝たなければならない」と、強調した。
 「緊急事態宣言」(declaration of a state of emergency)は、戦時下に出される「戒厳令」(martial law)によく似ている。権限の一部を政府から軍に移す以外は、人々の行動を規制し、国民の権利を制限する点で同じだ。
 しかし、新型コロナウイルスのような感染症対策は、戦争とは言い難い。そのような考えは、誤った対応につながる。ウイルスは、政治的な勝利を求めない。ウイルスに打ち勝つためにすべきことは、医療や科学の力によってできるだけ多くの人の命を救うことだ。それは、人の命を奪い、経済を破壊する戦争による勝利とは、まったく別物だ。
 ウイルスの感染拡大に打ち勝つ手段として、私たちがいま手にしているのは、「検査」「隔離」「封鎖」であって、それらは確実な武器ではない。まだ、ウイルスに打ち勝つための確実な武器と言えるクスリやワクチンはできていない。
 つまり、いまは武器なしで戦っている状況で、武器ができるまでは、経済を持たせなければならない。
 現時点では、ロックダウンを続けなければならないが、そのなかで、限りある人的資源、物的資源を新型コロナウイルスとの戦いにすべて注ぎ込んでしまったら、経済的な幸福と将来の成長が犠牲になる。国民はよりいっそう貧しくなり、より多くの命を失うかもしれない。
 いま、日本は誤った方法で、ウイルスに勝とうとしている。というか、ウイルスとの戦いを戦争とすら意識せず、自然災害として、それが過ぎるのをただ待っているだけだ。
(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

【読者のみなさまへ】本メルマガに対する問い合わせ、ご意見、ご要望は、私のメールアドレスまでお寄せください。 → junpay0801@gmail.com

タグ :  , , ,