新型コロナウイルスは人口的につくられたとする説は、まだ感染が中国内に留まっていたころから囁かれていた。しかし、その後いったん立ち消え、3月半ばごろから復活した。
そのきっかけをつくったのは、中国外務省高官の発言だ。その後、米中の非難合戦があり、大手メディアも記事にした。では、その真偽のほどは?
2回に分けて、これまでの経過を検証して配信します。
トランプの「チャイナウイルス」発言
「チャイナウイルスと言ってなにが悪い」
と、トランプ大統領は言い放った。スピーチの文面に「Coronavirus」(コロナヴァーラス)とあるのを、そこにわざわざ線を引いて「China virus」(チャイナヴァーラス)と書き換え、記者会見でアピールしたのだ。
これは、3月12日、中国外務省の趙立堅報道官が、「新型コロナウイルスはアメリカ軍が武漢に持ち込んだかもしれない」とツイートしたことに対する仕返しとも言えた。もちろん、中国政府はトランプ発言に激怒した。
しかし、トランプ大統領はまったく動じず、ツィートでこう反撃した。
「このウイルスは中国からもたらされた。(チャイナウイルスと呼ぶのは)完全に正確な表現だ」
これに対して、今度はアメリカ国内の人権団体、中国系アメリカ人団体、リベラルメディアなどから「人種差別的発言だ」という抗議の声が上がった。WHOもトランプ大統領を非難した。以来、トランプ大統領は新型コロナウイルスの呼び方を元の「コロナヴァーラス」に戻し、「チャイナヴァーラス」とは呼ばなくなった。
しかし、トランプ大統領が「チャイナ」を強調したのには、もっと別の理由があった。
3月半ば過ぎのこの時点で、アメリカの感染者数は拡大の一途をたどっていたからだ。トランプ大統領としては、なぜ、アメリカが中国発の疫病の惨禍に苦しまなければならないのか、納得がいかなかったのだろう。また、新型コロナウイルスの発生に関しては、疑問がくすぶっていた。
それは、ウイルスが自然発生ではなく、中国が人工的につくったものではないかというものだった。だから、「アメリカ軍が武漢に持ち込んだ」と言う趙立堅報道官の発言は、看過できなかったのだ。
海鮮市場のコウモリからヒトに感染した
武漢市には「武漢ウイルス研究所」があり、研究所内には中国ウイルス培養物保存センターがあって、多くのウイルス株を保管している。そこが、ウイルスの発生源ではないかということは、早くから指摘されていた。
マスメディアは一切取り上げなかったが、この話は、オルトメディアを中心にネットで拡散していた。
しかし、米中が舌戦を始める前までのマスメディアでの主流なストーリーは、新型コロナウイルスは自然界のなかで突然変異で生じたもので、それはおそらくセンザンコウを中間宿主としてコウモリからヒトに伝染したというものだった。
中国の研究者たちは、そう発表していたし、中国政府もそれを認めていた。中国政府は、1月半ばの段階で、ウイルスの遺伝子情報を公開したので、人工説を唱える研究者は世界にはいなかった。
発生源は、中国の武漢市にある海鮮市場。そこで売られていたコウモリからヒトに感染した。これが定説化していた。
(つづく)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
【読者のみなさまへ】本メルマガに対する問い合わせ、ご意見、ご要望は、私のメールアドレスまでお寄せください。 → junpay0801@gmail.com