前回に続いて、「新型コロナウイルスは人口的につくられた」とする説を検証する。
いったん立ち消えになっていたこの説は、4月になって復活。「ワシントンポスト」(WP)紙などの大手メディアが取り上げたことで、再び火が点いた。そうしたなか、AFP通信が、これまでの経過を整理してまとめた記事を配信した。前回は、ここまで伝えた。 では、その後、どうなったのだろうか?
なんとノーベル賞学者「人工説」を唱えた
AFPがニュートラルな記事を出す2日前の4月16日、フランスでも騒動が勃発した。
その後、大きな波紋を呼ぶインタビューが、「Pourquoi Docteur」(どうして?ドクター)というサイトで流され、翌日、なんと本人がニュースチャンネルの「C-NEWS」に出演して、再び同じ内容を語ったのである。
その本人というのは、1983年に HIV (エイズウイルス)を発見した功績でノーベル賞を受賞したリュック・モンタニエ博士。彼は、「新型コロナウイルスは人工的なものであり、武漢ウイルス研究所でつくられたのに違いない」と語ったのだ。
ノーベル賞受賞学者が人工説を断言しただけに、アメリカでも日本でも右派人間は喜んだ。これで、人工説にお墨付きが与えられたと思った。
ではなぜ、モンタニエ博士は人工説を肯定したのだろうか? モンタニエ博士のインタビュー内容をまとめると次のようになる。
《新型コロナウイルスのシーケンスの分析を行っているのは私だけではなく、私の同僚で、バイオ数学者であるジャン=クロード・ペレーズも行っている。彼はウイルスのシークエンスの細部にまで掘り下げた研究を発表した。その前には、インドの研究者グループも分析を公表ししようとした》
《科学的真実というのは、隠そうとしていても隠せるものではない。見て驚いたのだが、そこには別のウイルスの配列が入っていた。それは自然に混ざったものではない。大本はコウモリのウイルスだから、それを組み替えたのだ。HIV 配列をコロナウイルスのゲノムに挿入するためには、分子ツールが必要で、それは研究室でのみ行うことができる。海鮮市場から出たというのは、美しい伝説だ。そのような可能性はない》
《もっとも合理的な仮説は、誰かがHIVのワクチンをつくりたかった。そのためにコロナウイルスを使ったと考えることだ。中国政府が、これを知っていたのなら、彼らには責任がある》
モンタニエ博士はいわく付きの人物だった
しかし、フランスのマスメディアは、モンタニエ博士の発言には冷ややかだった。「ル・モンド」紙は、権威ある遺伝学者の次のようなコメントを載せた。
「新型コロナウイルスは、HIVウイルスの配列との類似性があまりにも少なすぎて、遺伝物質の重要な交換があると結論付けることはできない」
雑誌「フィガロ」も批判記事を出し、モンタニエ博士の人工説の肯定はあまりに安易だと批判した。仏パスツール研究所や国立科学研究センターの研究者は、人工説を相次いで否定した。ある特定のウイルスにほかのウイルスの遺伝情報が入るのは、自然界でよくあることだと言うのだ。
フランスのマスメディアがこのような冷ややかな反応を示したのには、別の理由もあった。
それは、モンタニエ博士の評判がすこぶる悪く、科学界ではいわく付きの人物だったからだ。端的に言ってしまえば、「トンデモ学者」で、その言動によりフランス国立医学アカデミーから非難されたこともある。
例えば、博士は「レメディー」(治療薬)と呼ばれる「ある種の水」を含ませた砂糖玉があらゆる病気を治療できると称する「ホメオパシー」(homeopathy)の信奉者である。現代医学では、ホメオパシーはプラセボ(偽薬)効果以上の効果はないと否定されている。
そのため博士は、ノーベル賞受賞たちのグループから、「専門外の発言を控えるべきだ」という嘆願書を出されたこともあるという。
(つづく)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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