今後ありえる、JALとANAの経営統合
いま、この状況でまことしやかに囁かれているのが、JALとANAの経営統合だ。じつは、定期航空協会は政府のヒアリング後、「2.5兆円の支援パッケージ」を政府に要請していた。その内容は、空港使用料や税の支払い猶予や減免、政府保証(低利・無担保)付き融資を求めるものだった。
つまり、航空業界を政府の丸抱えにしてほしい。そうして救ってくれというのだ。そうしなければ、JALもANAも、中小航空会社、LCCもすべて潰れてしまう。短期的な不況なら、資産売却などでやりくりは可能かもしれないが、コロナショックはそれをはるかに超えている。つまり、航空業界のギブアップ宣言である。
これを受けて、政府部内では、コロナ禍が長引いた場合の措置の検討に入った。それが、前記したJALとANAの経営統合案だ。日本は、ナショナルフラッグ1社のみ残すことにする。そうして、航空業界をなんとか存続させるというのだ。
こうした話は、なにも日本だけではない。現在、各国でも同じような案が浮上している。
すでにJALもANAも夏のボーナスは減額、新規採用を中止することを決めている。このあとは、大幅なレイオフが予定されている。
JALの場合、1度破綻して清算されているので、有利子負債は約1600億円、手元現預金は4000億円近くあるので、固定費がかさんでも1年は持つと言われている。一方、ANAの場合は、直近の有利子負債が約8500億円。そのうち、1年以内に返済や償還が必要な有利子負債1079億円。これを手元資金から差し引くと、耐久期間は7カ月程度と言われている。
いきなり瀕死に陥ったアメリカ航空業界
アメリカの航空業界も、日本と同じような苦境に陥っている。なにしろ、世界中の国が「渡航禁止」(渡航警戒レベル4)になっているのだから、国際線の売り上げは立たない。国内も、ロックダウンで減便が相次いだ。5月からのロックダウン解除で持ち直したとはいえ、乗客は戻っていない。
じつは、今年の1月まで、アメリカの航空業界は好調だった。ユナイテッドは今後パイロットの需要が高まるとみて、2月初旬に航空学校を買収したし、デルタは、2月14日のバレンタインデーに総額16億ドル(約1760億円)という記録的な額のボーナスを従業員に支給した。
ところが2月、新型コロナウイルスのパンデミックが始まると、一気に旅客が減った。業界団体「エアラインズ・フォー・アメリカ」(A4A:Airlines for America)によると、いまや航空業界は1カ月に120億ドル(約1兆3200億円)の損失を出しているという。
トランプ政権は3月末、「コロナウイルス支援・救済・経済安全保障法」(Coronavirus Aid, Relief, and Economic Security Act:CARES法)を成立させた。これにより、航空業界は580億ドル(6兆2100億円)の支援を受けるとになった。
ただし、この額のうち半分の290億ドルは従業員の給与補助で、政府は9月末までは従業員のレイオフと解雇をしないといった条件を付けた。
ユナイテッドが4月30日に発表した第1四半期(1月〜3月)の業績によると、純損失は17億ドル(1870億円)となっている。第1四半期がこれなら、第2四半期はさらに悪化するのは間違いない。
(つづく)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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