連載357 山田順の「週刊:未来地図」世界エアライン危機: 自由に旅行できる日は再び訪れるのか?(下2)

国際線に頼るナショナルキャリアの危機

 LCCもそうだが、国際線がほぼ閉じてしまった現在、国際線に頼っているナショナルキャリアも危機に陥った。
 世界の航空会社ランキング「エアライン・オブ・ザ・イヤー2019」の1位はカタール航空、2位はシンガポール航空だが、この2社とも国内線はない。すべて国際線だ。4位のUAEのエミレーツ航空、5位の香港キャセイパシフィク航空もそうである。となると、このままの状況が続けば、日毎に経営は苦しくなる。
 シンガポール航空は、1972年以来の赤字になるのが確実視された3月時点で、130億ドル(1兆4300億円)の資金調達を行なった。また、旅客機を貨物専用便として運行するようになった。
 カタール航空は、産油国だけに経営は問題ないとされるが、先行きはわからない。エミレーツ航空も同じだが、ドバイでのトランジットを充実させようと、4月21日からドバイでの乗降客全員に、世界初のPCR検査を実施するようになった。(ちなみに、航空会社ランキングで第3位は日本のANA)
 このように、小国のナショナルキャリアは、コロナ禍で疲弊し始めたが、欧州のナショナルキャリアも同様の危機にある。欧州の場合、各国のナショナルキャリアが相互に乗り入れている。これが、国境が閉じられたために、ほぼストップしてしまった。独ルフトハンザも、英ブリテッシュエアウェイズ(BA)も、仏エールフランスも、みな危機に陥った。イタリア政府は、アリタリア航空を6月に完全国有化する方針を表明している。
 ここで、話を少々脱線させると、BAの危機はかなり深刻のようだ。5月初旬、ニューヨークのJFKからロンドンヒースロー空港行きのBAに乗った人間が、私にこう言ってきた。
 「機内食が出ませんでした。コロナのためサービスを中止するというアナウンスがありました。信じられません。それでいつもより高い料金を取るのですから。もうBAには絶対乗らない」

もっとも早く立ち直る中国のエアライン

 このように見てくると、現時点で航空業界が生き残れるのは、国内市場が大きい国ということになる。国境をまたいで飛べないのだから、相当な規模の国内市場がなければならない。
 となると、コロナ禍からいち早く立ち直り、経済活動を再開した中国をおいてほかにない。続いてアメリカとなり、欧州は前記したように、ほぼ無理だ。
 中国民用航空局によると、中国の航空業界は今年の1〜3月期で398億人民元(約6050億円)の損失を計上した。中国は航空会社が乱立しているが、大手は3社(中国南方航空、中国国際航空、東方航空)で、この3社とも旅客数を前年同期比で5割落とした。中小となると、さらに落としている。
 そのため、3月半ばから、激烈な価格競争が始まった。中国南方航空の新疆支社は、いくつかの路線のチケット価格を8〜9割引で販売。また、深セン航空は、深センからの成都便を、なんと5元(75円)で売り出した。こうなると、中国のほうが、本当の資本主義国家と思う。
 とはいえ、こうして国内線の需要が回復しても、国際線が回復しなければ、業界全体は回復しない。中国の航空業界が発展したのは、ここ十数年の中国人の海外旅行ブームに支えられたからだ。中国人海外旅行客は、中国の航空業界ばかりか、日本、アメリカ、欧州など全世界の航空業界を支えてきた。(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
【読者のみなさまへ】本メルマガに対する問い合わせ、ご意見、ご要望は、私のメールアドレスまでお寄せください。 → junpay0801@gmail.com

最新のニュース一覧はこちら

タグ :  , ,