2020年、世界全体で約3140億ドル消失
「IATA」( International Air Transport Association :国際航空運送協会)は、4月半ばに世界の航空会社の今年の見通しを発表した。それによると、旅客収益は約3140億ドル(約34兆5000億円)減少し、前年比55%減となるという。また、4月上旬の時点で世界各地で運航された航空便の本数は、昨年比で80%減となっていた。
国連の専門機関「ICAO」(International Civil Aviation Organization:国際民間航空機関)は、4月29日、コロナ禍に対する航空業界の復興プランを描くタスクフォース(作業部会)を設立した。今後の運航再開に向け、ほかの国連機関、「WHO」(世界保健機関)、「UNWTO」(国連世界観光機関)などと協議して、5月末に具体策を発表するという。(編集部注:このコラムの初出は5月12日)
はたして、どんなプランが示されるのか。ただ、需要がないのだから、解決できる名案などありようがない。
ジム・ロジャーズは航空業、観光業を推奨
先にバフェットが航空業界を見限ったと述べたが、逆に、推奨しているのが、ジム・ロジャーズだ。フィナンシャルプランナーの花輪陽子氏が、「Yahoo」に寄稿した記事(5月9日)では、ロジャーズはバフェットと180度違う見方をしている。
ロジャーズの投資手法は「安く買って、高く売る」という至ってシンプルな手法。その視点でいくと、航空業界や観光業界は投資に最適なのだという。以下、記事から、ロジャーズのコメントを引用する。
「簡単に言えば、一番やられたものを買うべきだ。現時点では、航空会社が一番だろう。レストランやホテル、観光関連、海運も含めた運航関連会社は壊滅的なダメージを被っている。再上場相場に入った際には、そういった産業に一番大きなラリーが訪れる。他には農業銘柄も買えるだろう」
「今回の危機で世界の主要国がみなダメージを受けると述べた。それは中国も例外ではないが、その中からいち早く立ち上がるのは中国だろう。私がアジアに移ったのは、中国が次の経済覇権を握ると信じているからだ。中国がアメリカに代わる覇権国になることを疑っていない。ただ、その過程ではさまざまな問題に直面するだろう」
短期的には海外旅行は富裕層だけのものに
ジム・ロジャーズの見方は、中国が次の覇権を握るという点を除いて、長い目で見れば正しいと言える。この先も、航空業界も観光業界もなくなるわけではないからだ。
ただ、問題は、業界が2019年のレベルに戻るのがいつになるかということである。それはいま、誰にもわからない。
おそらくワクチンの実用化にかかっているが、どんなに早くても来年以降になる。ワクチンの実用化が長引けば、人類全体が集団免疫を獲得するかまで待たなければならないかもしれない。そうなると、あと数年はかかる。
そこで、紹介したいのが、「ロンリープラネット」の記事『COVID-19後に飛行機旅行するときに知っておくべき8つの変化』(8 changes we can expect when flying after COVID-19)だ。https://www.lonelyplanet.com/articles/how-travel-will-be-different-after-coronavirus
この記事では、主なポイントとして「航空券価格の上昇」、「マスクは必須」、「座席は一席空ける」、などを予想している。また、「国によってそれぞれのルールができるかもしれない」とし、たとえば、コロナ追跡アプリとか、感染していない証明書類が必要になるかもしれないとしている。つまり、短期的には、私たちはこうした旅行しかできなくなる。
マスクを着用し、バラバラに着席して、目的地に向かう。到着したら、検疫を受ける。そして感染の有無か抗体の有無が確認された後、初めて自由な行動を許される。
コロナ追跡アプリとして思い浮かぶのが、中国で導入された「健康QRコード」だ。これはアプリにスマホの持ち主の健康状態が「赤」「黄色」「緑」で示され、街の各ポイントに設けられた検問所で、「健康」を示す「緑」を見せないと、自由に移動できないというもの。
おそらく、こうしたアプリか、あるいは、抗体検査で得られる「免疫パスポート」が、旅行の必携品となるだろう。
そして、飛行機代もホテル代も、いまより確実に値上がりする。エコノミーの座席が半分以上使えない、便数が極端に少ないのだから、エコノミーで現行料金の倍にはなるだろう。そうならないとしたら、それは航空会社が国有化された場合だ。また、ホテル代も上がる。とくにリゾート地のホテルは高騰するに違いない。
こうなると、LCCでエコノミーなホテルに泊まるような旅行は消滅する。つまり、この先は、飛行機を使った海外旅行は、富裕層だけのものになるのではなかろうか。(了)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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