もっと合理的な21世紀型の対策がある
専門家会議は、2月24日に「これから1〜2週間が瀬戸際」という見解を出した。そのせいか、首相は25日に突如、全国に「いっせい休校」を要請した。しかし、専門家会議は、その後も「持ちこたえている」などと言い続け、危機感に基づく提言はなにもしなかった。
2月24日から3週間後、3月19日に行われた会議では、前回からの検証もなく、あいまいな言い方に終始した。
専門家会議の広報役となった尾身氏は、こう述べた。
「日本国内の感染状況については、引き続き持ちこたえているが、一部の地域では感染拡大が見られ、今後地域において、感染源(リンク)がわからない患者数が継続的に増加し、こうした地域が全国に拡大すれば、どこかの地域を発端として、爆発的な感染拡大を伴う大規模流行につながりかねないと考えている」
この発言のせいか、その後の連休はで、人々はどっと外に出てしまった。そして、「自粛疲れ」という言葉が定着した。
2月27日の「日本経済新聞」の記事『新型コロナ座談会 連鎖断てるか、この1〜2週が正念場』(専門家会議の脇田隆字氏、尾身茂氏、押谷仁氏が出席)で、尾身氏は次のような見解を表明している。
「感染拡大を防ぐだけが目的なら、中国と同じことをやればよい。しかし、人々の移動まで止める必要はない。一人ひとりの感染予防はもちろん重要だが、もっと合理的な21世紀型の対策があるはずだ」
21世紀型の対策とはいったいなにか? 4月7日、日本は世界でもっとも遅れて緊急事態宣言をし、“自粛ロックダウン”に入ってしまった。
このとき首相が持ち出したのが、専門家会議のメンバーの1人、北海道大学教授の西浦博氏(43)が作成したグラフで、それに基づいて「接触8割減」が唱えられた。しかし、その根拠となる基礎データは公開されなかった。西浦博教授は、緊急事態宣言が延長される元になった「実効再生産」のデータも提供したが、その数値(東京は0.5、全国は0.7)について、どう算出したのか正確に答えられなかった。
昭和の懐メロみたいな昔風の対策に固執
なぜ、専門家会議は、ここまで迷走を繰り返したのだろうか? 東大先端研がん・代謝プロジェクトリーダーの児玉龍彦氏(66)は、ユーチューブチャンネル「デモクラシータイムス」の番組で、尾身茂副座長と岡部信彦氏(74、川崎市健康安全研究所所長)の2人の名を挙げて、こう指摘した。
「かつてWHOでアジアの感染症対策を指導する立場にあった立派な方々ですが、昭和の懐メロみたいな昔風の対策に固執した。世界の感染疫学は遺伝子工学をもとに膨大検査をして情報追跡をする手法に移っていたのに、そのトレンドが理解できず、今回の失敗が起きてしまった。専門家会議にはコロナウイルスの遺伝子解析の話をできる人が一人もいない。C型肝炎や抗生物質の専門家はいますが、遺伝子工学や情報科学の専門家がおらず、この専門家会議は学問的にはかなり問題だらけと言えます」
「奇跡」なのか?「日本は神の国」なのか?
現在、どう考えても、“神の国ニッポン”としか思えない現象が、進行している。政府も専門家も迷走に迷走を重ねたにもかかわらず、5月に入って感染者数は減り続け、死者数も低く抑えられている。そのため、東京をはじめとする8都道府県に対する緊急事態宣言の解除は、目前となった。来週21日には、ほぼそうなると見られている。(編集部注:このコラムの初出は5月19日)
この原稿を書いている時点(5月18日)の日本の確認感染者数は1万6285人で、死者数は744人、人口100万人当たりの死亡数は6人。これに対して、アメリカは確認感染者数150万7861人、死亡者数8万9556人、人口100万人当たりの死亡数は271人である。
アメリカと日本の人口比は約2.8倍。それなのに、確認感染者数で約95倍、死亡者数で約110倍、人口100万人当たりの死亡数で約45倍も差がある。
いったい、なにがこの差をつくっているのか?
この数値をそのまま受け取れば、日本のコロナ感染防止は成功したと言うほかないが、本当でそれでいいのだろうか?
つい1カ月ほど前、欧米メディアも日本のメディアも、そして一部の専門家も、口をそろえて「いずれ東京もニューヨークのようになる」と警告していた。それがどうだろう、いまの日本の現実はミステリアスすぎる。
「BCG説」、「ウイルス株の違い説」、「集団免疫獲得説」、「アジア人例外説」、「日本人清潔好き説」、「文化の違い説」などが言われているが、いずれも科学的知見に欠けている。
となると、このミステリーが続いていく限り、日本のコロナ感染防止の成功は「奇跡」、あるいは「日本は神の国」という理由で片付けられる可能性がある。
とするなら、いったい、なんのために私たちは“自粛”したのだろうか。この先、どうして“新しい日常”を始められるだろうか。本当に、わけがわからなくなってきた。
(了)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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