連載364 山田順の「週刊:未来地図」対策は失敗続きなのにコロナ感染防止は成功:なぜ、日本の“奇跡”は起こったのか?(上)

 「緊急事態宣言」が解除され、コロナ禍は一段落。これではたして収束するのかはわからないが、ここまでの状況を欧米諸国と比べると、日本はコロナの封じ込めに成功したとしか言いようがない。感染者数も死亡者数も、圧倒的に少ないからだ。
 すべての対策が後手に回り、首相以下、政府も専門家も無能をさらけ出したというのに、まさに“奇跡”だ。
 なぜ、こうなったのか? 今回は、このミステリーを、解き明かしていこうと思う。

これだけ失敗しても感染者も死者も少ない

 ついこの前まで、「いずれ東京もニューヨークになる」と、欧米メデイアも、多くの専門家も言っていた。それが、いまや新規感染者数は一桁台。日本全国でも二桁台。人口100万人当たりの死亡者数を見ると、たった6人。アメリカはなんと300人近く、イタリア、フランス、英国などの欧州諸国は500人を超えているのだから、これは“奇跡”と言うほかない。
 それにしても、アベノマスク (アホノマスク)は、発表から2カ月になるのに届かない。PCR検査数は、OECD諸国でビリから2番目の低さで、いまも1日2万件に達していない。これはニューヨーク州の1日の検査数より少ない。しかも、これまで、検査を受けられない患者が続出し、病院のたらい回しまで起こった。
 クルーズ船「ダイヤモンドプリンセス 」では検疫に失敗しているし、クラスター追跡でもITを使えず、電話とファックス。
 経済対策は遅れに遅れて、1人10万円を給付するのにトラブル続き。オンラインより郵送手続きのほうが速いという、世界のどの国でもありえないことが起こった。そのうえ、いまだに、国民の半数に届いていない。
 これで、5月25日、緊急事態宣言が全面的に解除され、会見に臨んだ安倍首相はこう言った。
「日本ならではの対策で、1カ月半で収束した」
 まさかの発言である。いったい全体、どうなっているのか? 誰もが首を傾げるのも当然だろう。

アジアでは日本は感染対策“劣等生”

 それではまず、日本の“奇跡”について、もう少し詳しく見ていこう。
 前記したように、日本の人口100万人当たりの死亡者数は、欧米諸国に比べると、桁違いに少ない。コロナ禍を各国で比較する場合、感染者数より、この死亡者数が大事である。
 というのは、感染者数は検査をして確認された数だから、検査人数、また、各国の人口の違いによって、比較するのには無理がある。それに比べて、人口100万人当たりの死亡者数は、新型コロナウイルス感染症によって実際に死亡した人の人口比だから、コロナ禍の被害を端的に表していると言っていい。
 次は、主な欧米諸国の人口100万人当たりの死亡者数(5月24日現在、ジョンズホプキンズ大学CSSE参照)である。
 アメリカ:298人、スペイン:613人、イギリス:541人、イタリア:541人、フランス:434人、ドイツ:100人
 感染拡大抑制に成功したと言われるドイツでさえ100人だから、日本の6人というのは桁違いなのがわかる。
 ただし、これをアジア諸国と比べると、違った面が見えてくる。欧米諸国と同じように、以下、アジア諸国の人口100万人当たりの死亡者数を見てみよう。
 フィリピン:8人、韓国:5人、シンガポール:4人、インドネシア:4人、マレーシア:4人、中国:3人、タイ:0.8人、香港:0.5人、台湾:0.3人、ベトナム:0人
 発生国の中国が3人というのは驚きだが、ほかのアジア各国はみな日本より少ない。ベトナムにいたっては0人。つまり、日本は、アジアではフィリピンに次ぐブービーで、感染対策“劣等生”と言っていいのだ。
 それでも、韓国、台湾、香港など対策が万全の“優等生”の国とそう変わらないのだから、ミステリーはますます深まる。
 ただ、欧米諸国と比べた場合、日本だけのミステリーではなく、アジアの“ミステリー”“奇跡”とも言えるだろう。(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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