連載370 山田順の「週刊:未来地図」香港崩壊、新興国通貨の暴落、コロナ大不況・・・米ドルへのシフトを急げ!(下)

中国の国家資本主義のほうが優れている

 習近平をはじめとする中国指導層は、近年、慢心しているとしか言いようがない。アメリカをはじめとする自由主義経済(資本主義)より、自分たちが進めてきた国家資本主義経済(社会主義)のほうが優れていると、なぜか信じ込んでしまっている。
 それは、リーマンショック後の大型財政出動で世界を救い、いままたコロナ禍から世界を救いつつあると、自分勝手に解釈しているからだ。
 習近平は、毛沢東を尊敬し、自らを毛の再来として“中国の夢”を果たそうとしている。しかし、毛沢東は、中華民国に勝って中華を統一したが、その後の政策はすべて失敗している。「大躍進」「文化大革命」と、どれだけの犠牲者を出したかしれない。
 今日の中国、世界第2位の経済大国を築いたのは、すべて鄧小平である。中国経済に市場主義を取り入れる「改革開放路線」を打ち出し、「白い猫であれ黒い猫であれ、ネズミを捕るのがよい猫である」という現実主義を取らなければ、いまの中国はない。
 その鄧小平が教訓として残した「韜光養晦」(とうこうようかい:「自らの力を隠し蓄える」という意味)を、習近平は守らない。
 また、中国の戦略家なら必ず読む『孫子の兵法』も無視している。『孫子の兵法』は、超現実主義に基づいていて、たとえば「彼を知り己を知れば勝ちすなわち殆(あや)うからず」(敵を知り味方を知れば、負ける心配はない)」と、力説する。
 それなのに、習近平はトランプがどんな性格でどのように出てくるかわかっていながら、中国のメンツにこだわる。彼が大統領選挙のために、対中強硬路線を取っていると信じてしまっている。この点では、日本のメディアも同じだ。
 トランプはトンデモ大統領だが、アメリカの選択は、トランプの個人的な選択ではない。アメリカは歴史的に「覇権挑戦者」を断じて許さない。それなのに、習近平は真正面から「中華民族の偉大なる復興」という“中国の夢”に向かって突き進んでいる。

コロナ禍で新興国通貨が軒並み下落

 今後、世界は、コロナ禍による大不況に真っ逆さまに落ちていく。この状況を受け入れられない投資家たち、今年の3月が「底」だと信じた人々によって、株価は上がっている。みな、現実が見えなくなっている。
 しかし、通貨はウソをつかない。新興国通貨は大幅に下落している。IMFによると、コロナショックによる流出額は約1000億ドルに達し、その流出スピードはリーマンショック時を大きく上回るという。
 ブラジルの通貨レアルは、年初から見ると対ドルで3割下がった。トルコのリラ、ロシアのルーブル、アルゼンチンのペソ、南アフリカのランドなども軒並み下落した。タイのバーツ、マレーシアのリンギッドなど新興アジア諸国の通貨も下落した。なんとアルゼンチンは、5月末にデフォルト(国債金利の支払い停止)までした。
 通貨安は一般的には輸出産業に有利に働くが、下落し過ぎると輸入物価が急騰し、高インフレを招く。また、ドル建てなど対外債務の返済負担が膨らむので、経済低迷が加速する。コロナ禍が続く限り、この通貨安に出口はない。

「アジア通貨危機」では通貨安が連鎖した

 ここで、1997年の「アジア通貨危機」を振り返ると、このときの最大の成果は、その後、日米欧に中国などを加えたG20の枠組みができたことだった。これにより、主要国を中心とした新興国の救済が可能になった。
 しかし、コロナ禍でG20は事実上吹っ飛び、機能しなくなっている。こうしたなかで、各国の経済再開が進んでいくと、今後、さらに通貨安の国際連鎖が起こることが懸念される。
 アジア通貨危機では、タイのバーツの暴落を引き金に、インドネシアや韓国からも投資資金が流出し、アジア経済の成長に急ブレーキがかかった。結局、韓国はデフォルトしてしまった。日本も大きな影響を受け、株価が大きく下落し、金融不況が深刻化した。しかし、当時の日本はまだ余力があったので、IMF、G7などと協力し、流動性支援などで新興国を援助した。
 しかし、当時に比べて日本の財政状況は極端に悪く、外貨準備としての米ドルは持っていても世界同時コロナ不況のなかでは、自国のことで精一杯である。それどころか、対米ドルで見ると、いずれ円も新興国通貨並みに下落する可能性がある。
 現在のところ、今年の3月に対米ドルで102.3円まで急騰した円は、100円台後半のボックス圏で推移している。これは、新興国通貨の対米ドルでの下落を受けてのもので、円と基軸通貨である米ドルとの比較を加味したものではない。今後、先進国のなかでもっとも経済が落ち込むのは日本である。そんな国の通貨が下落しないわけがない。
(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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