アメリカは、新型コロナの感染拡大が止まらず、世界一の「感染国」となっているのに、人種差別に対する「抗議デモ」が続いている。抗議デモを見ていると、限りない「デジャブ」観に襲われる。私の世代だと、これはまるで1960年代の再来だ。公民権運動、人種差別撤廃運動、ベトナム反戦運動、ヒッピー・ムーブメント、キャンパス占拠など、当時もデモの嵐が吹き荒れた。
なぜ、抗議デモは続くのだろうか? なぜ、人種差別はなくならないのだろうか? 今回の背景にはコロナ禍があるのは間違いないだろうが、リベラル派も保守派も、ある事実を素直に認めて、考え方を正さなければならいことがある。
まさかの「シアトル自治区」と「銅像破壊」
ミネアポリスの「黒人暴行死事件」(ジョージ・フロイド事件)の映像を見れば、誰もが怒りを表明して当然だ。その後、全米各地で「抗議デモ」が起こったのも納得できる。
しかし、やはり略奪や焼き討ちは行き過ぎだろう。シアトルにいたっては、デモが街の一画を占拠し、「自治区」(キャピトル自治区:CHAZ)までできてしまった。CHAZはすでに撤去されたが、デモとともに各地で起こった「銅像破壊」には驚くしかない。
なぜ、コロンブス像が、各地で引きずり下ろされなければならないのか。黒人差別は奴隷制度の結果。よって植民地主義も糾弾されなければならないというが、過去は変えられない。過去がどんなに間違っていようと、現在で裁くことはできない。
英国ではウィンストン・チャーチル像、オーストラリアではジェームズ・クック像、インドではマハトマ・ガンジー像までが、落書きなどの被害にあったというから異常だ。
もっとも驚いたのは、首都ワシントンのリンカーン公園にあるエイブラハム・リンカーンの「奴隷解放記念像」が破壊予告を受けたことだ。
この銅像は、立ち姿のリンカーンのかたわらで、膝まずいた黒人奴隷の手かせが壊されているというもの。これは、「パターナリズム」(paternalism:家父長主義)的な印象を与えるとして批判されてきたが、今回は、奴隷制度の象徴として批判された。黒人奴隷を解放したリンカーンだが、このモニュメントは許せないというのだ。
アメリカの建国は1776年ではなく1619年
アメリカでは、近年、リベラルが極限まで進み、その反動としてトランプのような「人種差別主義者」(レイシスト:racist)の大統領が誕生した。今回の抗議デモは、その再反動とも言えるもので、リベラル派の人々は、いまや黒人やアメリカ先住民からLGBTまで、すべての差別を撤廃しようとしている。
そうしたなかで、歴史の見直しも行われている。コロンブスはこれまでは新大陸の「英雄」とされてきたが、近年は先住民を虐殺した「犯罪者」と言われるようになった。
バージニア州リッチモンド(南北戦争時の南軍の首都)では、デモ隊と先住民団体によってコロンブス像が破壊され、公園内の池に投げ込まれた。彼らは、コロンブスは「いまも続く先住民に対する大量虐殺文化を広めた殺人者」とツイートしていた。
リベラルの過激派は、こういう考え方に共鳴し、「歴史修正主義」(historical revisionism)を先導してきた。つまり、歴史の書き換えだ。これは、日本で言うところの「自虐史観」で、白人たちは、過度に自分たちの祖先がしてきたことを反省させられるようになった。
リベラルメディアと言えば、真っ先に名前が挙がるのが「ニューヨーク・タイムズ」(NYT)だが、最近、もっとも驚いたのが、「NYTマガジン」が、昨年の夏に行なった『The 1619 Project』(NYTのHPで紹介されている)という記事キャンペーンだ。
これは、アメリカの歴史を1619年から説き起こすもので、1776年に建国されたというアメリカの「正史」とは別の価値観に基づくもの。ずばり言うと、奴隷制をめぐる歴史だ。
(つづく)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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