連載377 山田順の「週刊:未来地図」「抗議デモ」で歴史を書き換えてもいいのか? 人種の「格差」を認めなければ「差別」はなくせない(中)

奴隷制を守ることが建国の主目的だった

 私たちが習ったアメリカの建国は1776年で、このとき、ジョージ・ワシントン、ジョン・アダムズらの“建国の父”たちが「独立宣言」
 (Declaration of Independence)を採択した。「すべての人間は生まれながらにして平等であり、その創造主によって、生命、自由、および幸福の追求を含む不可侵の権利を与えられている」という有名な宣言から、アメリカの国家としての歴史は始まった。
 しかし、本当の歴史は1619年に始まると、「1619プロジェクト」は説く。この年、いったいなにがあったのか?
 北米における英国初の永続的な植民地は、バージニア州ジェームズタウンである。ここに、1619年、20〜30人の最初のアフリカ人奴隷が連れて来られた。それから、400年たった2019年、「NYTマガジン」はこのプロジェクトを始めたのである。
 リベラル派の学者やジャーナリストが、次々にエッセイ(論文)や記事、詩、写真を寄稿した。
 このプリジェクトのリーダーで、NYTの黒人女性記者ニコル・ハナジョーンズは、アメリカの建国を次のように述べている。
「入植者たちが英国から独立を宣言することを決断した主な理由の一つは、奴隷制を守りたかったからだ」
「(独立宣言の)すべての人間は生まれながらにして平等という建国の理念は偽りだ」
「アメリカは“デモクラシー”(democracy:民主政体)ではなく“スレイボクラシー”(slavocracy:奴隷制政体)として建国された」
 こんな「自虐史観」で歴史を教えられたら、アメリカの子供たちはアメリカという国家に誇りを持てるだろうか? 
 私の知人ジャーナリスト(白人)は、こう言う。
「たしかに、それは一面の真実だ。しかし、それだけを、アメリカの歴史とするなんてありえない。ただ、たしかなことがある。それは、われわれの先祖は“自由”を求めてここにやってきたが、黒人は”自由“を奪われてここにやってきたことだ」

困窮する「Z世代」がデモを先導した

 今回の抗議デモの合言葉は「BLM」(Black Lives Matter:黒人の命は大切)である。ただし、人種差別に抗議するだけのためのデモではない。背景には、コロナ禍で浮き彫りになったアメリカ社会のさまざまな歪みがある。
 デモ隊を見て気がつくのは、若者が多いことだ。
「フィナンシャル・タイムズ」は、この点を指摘して、デモの先頭に立っているのは「ジェネレーションZ」(Z世代)と見立てた記事を掲載した。Z世代は現時点で25歳以下の若者たちで、完全なデジタルネイティブ。
 彼らは、大人になってく過程で、スマホの普及、SNSコミュニケーション、オンラインショッピング、キャッシュレス、AI、ビッグデータなど、次々にデジタルエコノミーに組み込まれ、リーマンショクや格差の拡大も体験してきた。そうしていま、過去のどの世代より貧しい生活を強いられている。そんな彼らは、ロックダウンの直撃を受け、5月の25歳以下の失業率はなんと25.2%に達した。大学生の多くは、コロナ禍で就職できないうえ、ローンの返済もできない。
 Z世代の多くは、リベラルに共鳴している。民主党の大統領候補者選びでは、左翼で社会主義者のバニー・サンダーズを熱狂的に支持した。

抗議デモはアメリカ社会の分断の象徴

 もちろん、黒人はもとより、ほかの人種的マイノリティ、ラティーノなどの移民も、抗議デモに数多く参加している。彼らの多くは「エッセンシャルワーカー」で、医療や介護だけでなく、警備やゴミ収集などの現場で頑張っているのに、見返りがない。連邦政府は週600ドルの上乗せ支給を決めたが、それを受けるためには、解雇されて失業保険を申請しなければならない。しかし、彼らはエッセンシャルワーカーだけに、それが許されない。
 黒人の新型コロナによる死者数(人口10万人あたり)は、白人の2倍以上に達している。
 抗議デモによる混乱に拍車をかけたのは、トランプが極左組織「アンティファ」(ANTIFA:アンチ・ファシズム)が扇動しているとツイートし、これでデモを煽ってしまったこともある。たしかに、デモは急進左派や左派グループが扇動していた。また、便乗犯も大勢まぎれていた。
 しかし、トランプの態度は、かえって真面目にデモに参加している人々の反感を買った。また、トランプ支持の白人至上主義者、人種差別主義者の「反デモ行為」も煽ってしまった。
 つまり、抗議デモは、アメリカ社会がズタズタに分断されたことを象徴している。
(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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