コロナ禍であらゆることが行き詰っている。その1つに、三菱重工が10年以上にわたって開発を続けてきた「三菱リージョナルジェット:MRJ」(現在は「Mitsubishi SpaceJet:三菱スペースジェット:SJ」に呼称変更)がある。
すでに何度か試験飛行が行われていたが、設計変更、納入延期、購入キャンセルなどが相次ぎ、そこにコロナ禍が追い討ちをかけている。このまま、スペースジェットは飛べないままで終わるのだろうか? そうなれば、日本の凋落を象徴する出来事になる。
「メイドイン・ジャパン」のジェット機を飛ばすことは、戦後日本の大きな夢だ。それが、できなくなる可能性が高まっている。
4646億円の債務超過になった三菱航空機
さる6月26日、三菱重工業の株主総会が開かれた。注目は、子会社の三菱航空機が手がけてきた「スペースジェット」(SJ)の開発が大幅に遅れていることだった。
総会前に、三菱は、スペースジェットの開発体制を大幅に縮小する方針を打ち出し、内外約1800人の従業員を半分に減らすリストラ策を発表していた。また、最高開発責任者のアレックス・ベラミー氏の6月末の退任も発表していた。
総会の席上で、泉澤清次社長はこう述べた。
「新型コロナウイルス感染拡大で、航空機需要全体が打撃を受けている。現在、開発スケジュール全体の見直しを行っている」
そして、スペースジェット事業に関して、2020年3月期に2633億円の損失を計上したことを明らかにした。しかし、損出はそんな程度ではなく、その後の報道により、三菱航空機は3月末時点で最終的な損益が5269億円の赤字に転落したうえ、4646億円の債務超過に陥っていたことが判明した。
三菱航空機は、一昨年の3月期の決算でも約1000億円の債務超過となっていたので、本体の三菱重工業が支援した。それが、今期もまた大幅赤字、債務超過。
これで、はたして持ちこたえられるのか? いくらリストラするとはいえ、事業を続けられるのか?と、株主たちは危ぶんだ。
三菱重工は、コロナ禍の影響で他部門の収益も大きく悪化しており、2020年度の事業利益をゼロと想定している。となると、スペースジェットは、このまま飛べなくなる可能が出てきた。
コロナ禍で航空業界の苦境は数年は続く
コロナ禍で、いま、世界中で航空機需要が大幅に落ち込んでいる。国内線、国際線とも便数は大幅に減り、航空各社の経営は先行きが見えない状況になっている。
7月1日、国際航空運送協会(IATA)は、今年の航空需要が36%減少するという予測を発表。もし、新興国とアメリカに関する入国制限が継続した場合には、減少は53%まで拡大するとした。さらに、国際線の旅客需要がコロナ前の2019年の水準まで戻るのは、なんと2024年との見通しを示した。となれば、来年、再来年と、航空機需要は減り続ける。
三菱重工の株主総会の10日前、6月19日にJAL(日本航空)は株主総会を開いた。ここでも、質疑はコロナ禍関連に集中したが、画期的な打開策は示されなかった。苦境のなか、ANA(全日空)などとの「航空一本化」に関する質問も出たが、会社側はこれを否定した。
一方、アメリカでは、7月2日、財務省が航空業界向けの250億ドルの融資プログラムに関して、航空大手5社と合意したと発表した。すでにアメリカの航空大手の労働組合は、連邦議会に対し、来年3月31日までの雇用維持に向けて、320億ドルの給与補助金を追加するよう求める書簡を送付している。そんななか、アメリカンもユナイテッドも自主退社を募り始めた。もはや、航空業界は、政府の公的資金を注ぎ込まなければ存続できない状況になっている。これは、世界中同じだ。すでにタイ航空は破綻し、アリタリア航空はほぼ国有化された。
そんななか、はたして、まだ認証されていない新しい航空機が認証されるだろうか? また、認証されたとしても、それを購入する航空会社があるだろうか?
(つづく)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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