連載388 山田順の「週刊:未来地図」血迷った中国、愚かすぎる習近平: 世界を敵に回す「戦狼外交」の行く末は?(下1)

オーストラリア、インドも敵に回す不思議

 習近平がおかしい、支離滅裂なのは、「一帯一路」政策を核として世界中に影響力を強め、世界の国々と「ウイン・ウイン」の関係を築いていくとしながら、世界に喧嘩を売っていることだ。
 アメリカとの喧嘩は、覇権争いだから仕方ない。しかし、それ以外の国とも喧嘩をするというのは、常軌を逸している。外交の基本から言えば、それほどアメリカと対抗したいなら、自分の仲間を増やしていかなければならない。そうでこそ、覇権を確立できる。ところが、習近平は、それとはまったく逆のことをやっているのだ。
 オーストラリアは中国にとって、貿易相手国としても、戦略的な関係から見てもかなり重要な国である。しかし、中国政府は、オーストラリア政府が新型コロナの発生源を追及すべきだという要求を出すと、いきなり制裁関税などの“嫌がらせ”や“恫喝”行為に出た。即座に、オーストラリアの主要輸出品である牛肉の輸入を一部停止すると表明した。
 これに対して、オーストラリア首相のスコット・モリソンは「中国の脅しには屈しない」と声明を出したので、以来、両国は断行したも同然になった。
 中国はまた、インドとも紛争を起こした。6月15日、両国の係争地であるヒマラヤのガルワン地域で軍事衝突、インド兵20人が死亡した。報道によると、衝突は高度4267メートルの山岳地帯で夜間に起こり、6時間も続いたというから、中国側の計画的な行動であった疑いがある。
 これにより、コロナ感染者の拡大で困窮しているインド国民の「反中感情」は一気に高まった。中国製品のボイコット運動が起こった。しかし、悲しいかな、インドには主要な製造業がない。そのため、家事に必要な洗濯機、冷蔵庫などの白物家電、テレビからエアコンに至るまで、安価な中国製品をボイコットしてしまうと、国民生活は成り立たなくなってしまうのだ。

香港問題はEUとの関係もぶち壊した

 中国の国営メディアは、アメリカとの関税戦争が起こってから「連欧抗米」という言葉を使うようになった。アメリカに対抗するには、欧州と連携しなければならないという意味だ。
 しかし、習近平は、コロナ禍が起こってからは、欧州とも揉めるようになった。フランス大統領のエマニュエル・マクロンが、中国を新型コロナウイルスの発生源として批判すると、これに反発して公然と非難した。EUのなかでもっとも親中国のドイツに対しても、同様な抗議をするようになった。
 6月22日、習近平は李克強(リークォーチャン)首相とのトップ2で、EUとの首脳会議(テレビ会議)に臨んだ。EU側はこのとき、シャルル・ミシェル大統領(ベルギーの前首相)及びフォン・デア・ライエン欧州委員長(ドイツの閣僚を歴任、メルケル首相の腹心)とも、中国の香港に対する動きに懸念を表明していた。
 ただし、中国への制裁を主張するEU加盟国はなく、状況を注視するという姿勢だった。そのため、会議はもっぱら、中国とEUの投資協定に集中した。 習近平は次のように、中国の立場を表明した。
「(中国と欧州が)世界の安定と平和を維持する二大勢力となるべきであり、多国間主義を堅持し世界の安定化を図るための二大文明であるべきだ」
 まさに、「連欧抗米」という方針そのものを象徴するメッセージだった。
 ところがそれからわずか1週間後、中国は「香港国家安全法」を強行施行したのである。こうなると、EUのミシェル大統領も、中国を非難せざるをえなくなった。そして、7月13日、EU外相にあたるジョセップ・ボレル外交安全保障上級代表(スペインの元外相)は、EUもなんらかの対抗措置を検討していることを明らかにした。

中国メディアが賞賛する「戦狼外交」

 このように、習近平が進める中国外交は、私の理解を超えている。ところが中国の国営メディアは、こうした中国外交を「戦狼外交」と称し、中国の外交官はみな「戦狼」でなければならないと賞賛している。
「戦狼」というのは、2017年に中国で制作された映画『戦狼 ウルフ・オブ・ウォー』から取ったもの。人民解放軍に所属する主人公が、国のために戦うストーリーで、中国版『ランボー』と言われている。
 ということは、中国がいまやっているのは、外交と言うより、戦争、闘争である。なにか言われたら言い返す。そして、けっして後へ引かない。
 中国共産党の国際情報メディア『中国環球時報』は、欧米に戦いを挑む中国の「戦狼外交官」に対して、戦う姿勢が大切だと強調している。
 こうしたことを思うと、記者会見というと登場する中国外務省の華春瑩報道局長が、女性とは思えない強い口調で欧米を非難することも、また、いつもメガネに手をやって強気発言をする趙立堅報道官も、なぜ、あんな発言をするのか理解できる。
 ただし、共産党の意向で、忠実な「戦狼」にされてしまった彼らは、かわいそうと言うほかない。
(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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