連載394 山田順の「週刊:未来地図」「集団免疫戦略」は成功したのか? スウェーデンの現状から見た日本の今後(上)

 日本のコロナ感染の拡大は、今後も続いていくのは間違いない。それでつくづく思うのが、スウェーデンだ。スウェーデンはほぼどの国でも行なわれたロックダウンをせず、これまで「集団免疫戦略」を取ってきた。マスク、ソーシャルディスタンス、手洗いなどは奨励したが、あとは国民の自主性に任せたのだ。
 つまり、現在の日本と同じで、感染拡大を放置したわけだ。ただし、日本の場合は無策でこうなったわけで、この点ではスウェーデンとは違うが、方向性は同じだ。
 そこで、スウェーデンがどうなったかを知ることで、今後の日本がどうなるのかを考える。

新規感染者数も死者数も減少、収束に向かう

 スウェーデンの集団免疫戦略が成功するかどうか、これまで世界中が注目してきた。コロナ禍が始まってほぼ半年、いまこの時点で言えるのは、スウェーデンの感染拡大は収まりつつあるということだ。
 統計を見ると、6月後半以降、新規の感染者数が大きく減少している。これは、日本やアメリカ、スペイン、フランス、ドイツなど他の欧州各国で第2波と言われる感染拡大が起こっているのとは対照的である。
 スウェーデンでは、直近1週間での新規感染者数の平均値が6月29日以降、下がり続けている。また1日の新規感染者数も、6月24日に過去最多の1803人が確認された以後は減り続けている。また、死亡者数も減り、7月からはゼロの日が数日続くようになった。
 新規感染数のグラフを見ると、5月から下降していったん落ち着き、7月から再び上昇という第2波に見舞われている日本と大きく違っている。スウェーデンのグラフは、現在、第1波が終わりつつあることを示している。
 ジョンズ・ホプキンズ大の集計によると、スウェーデンでは8月3日の時点で、確認感染者数は8万422人、死亡者数は5,743人となっている。スウェーデンの人口は1,023万人で、日本の約12分1。それを考えると、感染者数も死亡者数もはるかに多いが、それでも1日当たりの感染者数、死亡者数が大幅に減り、全体として収束傾向にあることは、日本とは対照的だ。

政策の推進学者は「成功」とコメント

 スウェーデンの新型コロナウイルスに対しての政策方針は、「速やかに国民全体に感染を行き渡らせ、多くの人に免疫をつけてもらう」というものだった。いわゆる集団免疫戦略で、当初は国内外から非難された。
 しかし、政府はこの政策を曲げず、重症化しやすい高齢者と基礎疾患のある人間以外には、ロックダウンや移動の制限、マスクなどの規制を基本的に行わないできた。そのせいか、6月半ばには、人口100万人当たりの感染者数が世界第2位にまで上昇し、「スウェーデンの集団免疫戦略は失敗した」と言われた。
 ところが、その直後、前記したように、感染者数も死亡者数も減りだしたのである。
 スウェーデンの集団免疫戦略を推進してきたのは、免疫学者でもあるアンデシュ・テグネル氏。彼は、7月末、イギリスのネットメディア「UnHerd」のインタビューに応じ、自身の戦略を「かなりの程度で成功した」と語った。そして、「自発的な感染拡大防止策でも、他国の完全なロックダウンと同じように効果的だった」と続けた。
 さらに、テグネル氏は、スウェーデンの現状についてこう話した。「新規感染者数は急速に減少している。医療体制は継続的に機能している。患者を収容する病床は常に余裕があり、病院が混雑して医療が逼迫する事態にもなっていない」
 政策の推進者がこう言い、数字もそれを裏付けているのだから、スウェーデンの集団免疫戦略は成功したと言っていいのかもしれない。ただし、スウェーデン国民のほとんどが新型コロナウイルスに感染したかどうかはわかっていない。
 集団免疫が成立するためには、人口の6、7割が感染することが必要という。いまのところ、スウェーデンでそれを裏付ける調査が行われたという発表はない。
(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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