ベーシックインカムと同じ政府の補助金
現在、世界中でカネがばらまかれている。政府は国民を救うため、中央銀行にカネを刷らせて、それを直接国民に給付したり、企業に雇用維持金として配ったりしている。
こうした政府の補助金に国民や企業が頼るようになると、資本主義経済、市場経済は死んでしまう。政府が国民の雇い主になり、企業は国有企業になってしまうからだ。
職を失い、政府からの補助金で生活するようになると、自由も権利も失われる。いま、世界の政府がやっていることは「ベーシックインカム」制度を導入したのと同じだ。国民に一定額を配って生活を支えるという社会主義システムだ。
日本では給付金、一律10万円が配られたが、この先、第二弾、第三弾がある可能性がある。また、アメリカでは失業者に週600ドルが配られてきたが、7月で失効したため、トランプは大統領令で400ドルに減額して給付を継続することを決めてしまった。トランプはカネを稼ぐやり方は知っているが、資本主義は知らない。
これまで、ベーシックインカムは、フィンランド、カナダなど世界の一部の国で「実証実験」として行われてきた。しかし、いずれも成功していない。最低限の生活を保証すれば、人々はより幸福感を得られ、雇用も増え、生産性も上がるとされたが、そんなことはほとんど起こらなかった。
政府の財政負担が増すだけで、雇用はかえって減少した。一部の人々は働かなくなり、生活に困らない人々が受け取ったカネは「資産バブル」を引き起こすことになった。
政府が生活を保証してくれるのだから、余ったカネは株や債券、ゴールドなどの実物資産、不動産に向かう。いま起こっている株価の高止まりは、政府がつくり出した金融緩和マネーのおかげだ。
この恩恵を受けるのは富裕層だけで、圧倒的多数の低所得層は圏外である。コロナ禍が続き、政府が国民を助け続ける限り、経済は硬直し、社会は発展しなくなるだろう。
日本の社会主義化は元に戻せないのでは?
コロナ禍による国家と経済の社会主義化は、一時的なものならいいだろう。この状況では仕方ないと言える。コロナの感染が収束に向かい、経済が動き出せば、元に戻せばすむ。
しかし、本当に元に戻せるだろうか? 金融緩和を止められるだろうか?補助金を止められるだろうか? 止めてしまえば、生活難民が続出する。
結局、元に戻すかどうかは、国民次第だが、どう見ても日本人はそんな選択はできそうもない。コロナ禍が続けば、国民は政府の補助金の継続を求め続ける。そして、保守もリベラルも、国民のためとバラマキ続けようとする。
日本は、この道を突き進む。自民党も野党も、結局はバラマキ政党で、資本主義、市場経済をまったく理解していない。
その結果、最終的に「資産課税」などに行き着くのではないだろうか。富裕層から資産を取り上げ、一般国民に分配する社会主義的平等政策が採用されるのではないか。
アメリカと日本では資本家、経営者の考え方がまったく違う。アメリカの資本家、経営者は、資本、資産に関する政府の介入を徹底して嫌う。
しかし、日本の資本家、経営者は政府の介入を喜んで受け入れるだろう。
現状でも、日本国は十分に社会主義国家である。自由市場は年々狭まり、国民はなにかというと、本来頼ってはいけない国を頼りにしようとする。国家の政策で経済はよくなったり悪くなったりすると信じている。この危険性をメディアはまったく指摘しない。
コロナ対策で決まる「勝ち組」「負け組」
コロナ禍は、グローバル経済をストップさせ、世界中を「鎖国」状態にしてしまった。とくに、ヒトの動きは完全に止まった。空には、軍用機と貨物機しか飛んでいない。旅客機が以前のように飛ぶ日は来るのだろうか?
ともかく、この鎖国状態が解かれない限り、経済は回らないだろう。
いまや、世界中の国家がグローバル経済に依存している。したがって、一国だけがコロナの感染収束に成功しても、ほかの国で感染拡大が続いていれば、国内経済は回復しない。
この7月から、世界各国は鎖国解除に向けて動き出したが、その結果、再び感染拡大が起こるようになった。これでは、いつまでたってもグローバル経済は回らない。とくに、日本は絶望的である。国内で観光キャンペーンなどやっても、ほとんど意味がないからだ。
グローバル経済のなかで、この先、経済を回復させていけるのは、感染を抑えること成功した「勝ち組」国家だけである。感染拡大が止まらない「負け組」国家は、それができない。なぜなら、感染拡大の状況で国を開けたとしても、勝ち組からヒトは来てくれないからだ。また、勝ち組は負け組からの入国を拒絶する。
つまり、今後は勝ち組同士が相互開国し、経済を回していくことになる。その数がじょじょに増えるにつれて、経済も回復していくことになる。
(つづく)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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