「いまさら?」あまりに遅すぎる宣戦布告
マイク・ポンペオ国務長官が7月23日に行った演説が、アメリカの事実上の中国への宣戦布告と言われている。すでに2年前、副大統領のマイク・ペンスが同じような演説を行っているが、それを超えた内容だったからだ。
しかし、私に言わせれば「なにをいまさら」で、宣戦布告は遅すぎたとしか思えない。このことは、後述するとして、まずは演説の中身を見てみよう。
ポンペオ演説は「Communist China and the Free World’s Future speech」(共産主義者の中国と自由世界の未来に関する演説)と題され、カリフォルニア州ヨーバ・リンダ(ニクソンの生誕地)のリチャード・ニクソン大統領記念図書館で行われた。
演説がニクソン大統領記念図書館で行われたということは、重要なポイントだ。なぜなら、ニクソンは中国との国交を樹立し、以後、アメリカは中国に対して「関与政策」を取ってきたからだ。
この関与政策を間違いとし、「過去にはけっして戻れない」としたのが、今回のポンペオ演説なのである。
1972年、キッシンジャー(当時の国務長官)のお膳立てにより、ニクソンは訪中し、台湾を切り捨てて中国と国交を樹立した。台湾は国連から追放され、安保理に議席を得た中国は、以後、西側世界と対立を続けることになった。それが、許されたのは、中国経済がまだ取るに足らない規模だったからである。
ところが、鄧小平が「改革開放政策」を進めると、中国は大発展を遂げた。この発展にいちばん力を貸したのが、他ならぬアメリカだった。
中国が貧しさを克服して豊かになれば、いずれ民主化される。そうアメリカ人は考えた。イギリス人も同じで、香港を返還したのは、50年も経てば「一国二制度」は必要でなくなると考えたからだ。つまり、民主化された中国になるだろうと、50年という時間を設定したのである。
ところが、中国は逆方向に向かい、共産党独裁による帝国を完成させてしまった。
しかし、こんなことは、中国史を知ればわかりきったことではないか? アメリカも英国も、中国に関しては無知だったと言うほかない。
「過去の同じ過ちを繰り返さない」
自分たちの予測が甘かったことを、ポンペオは演説の中ではっきりと認めた。以下、演説内容のポイントとなる部分を列記してみよう。
《レーガン元大統領は「信頼せよ、しかし確かめよ」(trust but verify)の原則にそってソ連に対処した。中国共産党に関していうなら「信頼するな、そして確かめよ」(Distrust and verify)になる》
《いま行動しなければ、中国共産党はいずれわれわれの自由を侵食し、自由な社会が築いてきた規則に基づく秩序を転覆させる。1国でこの難題に取り組むことはできない。国連やNATO、G7、G20、私たちの経済、外交、軍事の力を適切に組み合わせれば、この脅威に十分対処できる》
《過去の同じ過ちを繰り返さないようにしよう。中国の挑戦に向き合うには、欧州、アフリカ、南米、とくにインド太平洋地域の民主主義国家の尽力が必要になる》
《中国共産党からわれわれの自由を守ることは、現代の“使命”だ。アメリカは建国の理念により、それを導く申し分のない立場にある。ニクソン大統領は1967年に「中国が変わらなければ、世界は安全にはならない」と記した。危険は明確だ。自由世界は対処しなければならない。過去に戻ることはけっしてできない》
(つづく)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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