強調された「中国共産党」と「使命」
ポンペオ演説においては、じつに27回も「中国共産党」( Chinese Communist Party)という言葉が使われた。そして、中国共産党を「中国市民」(Chinese citizens)と切り離して名指しで非難し、中国に対して、より断固たる態度を取ることが「われわれの時代の使命」だと、ポンペオは強調した。
ここからわかるのは、共産主義をアメリカはけっして認めない。イデオロギーの違いを許さないということである。この点で、「新冷戦」の始まりを告げたとされるペンス演説とは一段違っていた。
さらに、中国共産党を打倒することが「使命」と言い切ったこと、それがアメリカの「建国の理念」としたことは大きい。アメリカの建国の理念とは、言わずと知れた「独立宣言」の次の文である。
《われわれは、以下の事実を自明のことと信じる。すなわち、すべての人間は生まれながらにして平等であり、その創造主によって、生命、自由、および幸福の追求を含む不可侵の権利を与えられているということ》(We hold these truths to be self-evident, that all men are created equal, that they are endowed by their Creator with certain unalienable Rights, that among these are Life, Liberty and the pursuit of Happiness.)
共産党支配下の中国には「生命、自由、および幸福の追求」という基本的人権がない。だから、アメリカは中国市民にそれを与えるために「解放戦争」を行う。それが、アメリカ合衆国が天から与えられた「使命」=「天命」(“マニフェストデスティニー”Manifest Destiny)というのだ。
この理屈は、これまでアメリカが戦ってきたどの戦争でも同じだ。対日本戦争(太平洋戦争)においても、アメリカは軍国主義から日本国民を解放したことになっている。
とはいえ、それならなぜ、いまごろになってそれを言うのか? もっと早くから、中国の正体はわかっていたではないか?というのが、私たち日本人の思いではないだろうか。いつも私は思うが、アメリカ人というのは本当にお人好しすぎる。
中国をここまで増長させたのはアメリカ
アメリカは、「神の加護を受けた国」である。よって、世界に民主主義と基本的人権を広める「天命」を持っている。だから、ポンペオは、これを機にわれわれとともに中国共産党を打倒せよと呼びかけた。
しかし、それならなぜ、トランプはこれまで、欧州に対しても、日本に対しても、執拗に「安全保障代」(米軍駐留経費)をもっと増やせと言ってきたのだろうか? 中国の拡大を放置しておいて、「もっとカネを払え」というのは勝手すぎやしないだろうか。
ソ連との冷戦が始まり、欧州との赤化が懸念されたとき、アメリカは「マーシャルプラン」を設立して、欧州を援助して復興させた。ギリシア、トルコにソ連が影響力を及ぼそうとしたとき、この両国を徹底的に援助した。
ところが、1990年代半ばからの中国の南シナ海への拡張では、なにもしなかった。台湾もベトナムもフィリピンもSOSを発したというのに、南シナ海の島嶼に中国が軍事基地をつくることを見て見ぬ振りをし、事実上の領土化を許した。
アメリカはなぜか中国には寛容で、彼らの好きなようにさせた。そればかりか、中国の発展を促し、資本を投下して、そこで儲けることに専心した。
前記したように、これを可能したのが、ニクソン以来の対中政策である。キッシンジャーは周恩来を気に入り、アメリカ国内に「パンダハガー」(親中派)を育てた。中国人にアメリカ移住を許し、留学生はどんどん受け入れ、「メイドインジャパン」に代わって、「メイドインチャイナ」を買い続けた。
そうして、いまになって「中国はわが国をスパイしている」と言って、中国人と中国企業を追放しようとしている。これは、漫画チックすぎる歴史の皮肉だ。中国をここまで増長させたのは、アメリカ自身に他ならないからだ。
(つづく)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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