裏切られた独立と偽りのマニラ攻撃
パリの講和条約で、立場が大きく違ったのが、キューバとフィリピンである。キューバは独立したのに、フィリピンの独立は認められなかった。それは、アメリカとスペインの間に密約があったからだ。
戦争当時、劣勢を悟ったマニラのスペイン総督は「スペインの名誉を守るため、見せかけの戦闘を行い、その後スペイン軍は降伏する」とアメリカ側に約束した。ただし、条件をつけた。その条件とは、フィリピン独立軍のマニラ進入を許可しないということだった。
これを受けて、アメリカは、ジョージ・デューイ司令官の率いるアジア艦隊で、香港にいたフィリピン独立運動の指導者アギナルドをマニラ近辺に上陸させた。マニラ攻撃に協力すれば、フィリピンを独立させると約束した。要するに騙したのである。こうして、偽りのマニラ攻撃が行われ、スペインは降伏した。
しかし、フィリピン独立軍は、味方であるはずのアメリカ軍に掃討され、なんとアナギルドは殺害されてしまった。
時を経て、アメリカ上院に報告された文書によると、アメリカ軍は1902年までの4年間で、独立運動を行ったフィリピン人約20万人を殺害したという。いまでは歴史の出来事になってしまったとはいえ、これではアメリカに中国のチベット、ウイグル弾圧を責める資格があるだろうか?
中国を含むアジアの植民政策で出遅れたアメリカにとって、フィリピンは中国に向かうために欠かせない橋頭堡だった。アメリカは極めて戦略的に、米西戦争の間にハワイも併合していた。このハワイ併合もまた、同じやり口だったのは言うまでもない。
フィリピンを得たことにより、アメリカは世界一のシーパワーの座を英国から奪うことになった。ハワイを太平洋の中心拠点として、カリフォルニアからハワイ、グアム、フィリピン結ぶ「太平洋の架け橋」が誕生した。太平洋はアメリカの海になり、その後、日本海軍と雌雄を決することになる。
イエロージャーナリズムを利用する政府
ここまで述べてきて、メディアで仕事している身として、つくづく思うことがある。それは、いまも昔もメディアは変わらず、同じ間違いを繰り返すということだ。
とくに、ナショナリズム、ポピュリズムには弱い。為政者たちの国民への扇動に加担してしまう。
米西戦争当時のアメリカは、新聞ジャーナリズムの勃興期だった。次々と新聞が創刊され、読者獲得競争が熾烈を極めた。
そのなかで部数を伸ばしたのは、「イエロージャーナリズム」と言われた二つの大衆紙だった。一つが、新聞王と呼ばれたウイリアム・ハーストの『ニューヨーク・モーニング・ジャーナル』、もう一つがジョゼフ・ピューリツアーの『ニューヨーク・ワールド』だった。この2紙は、記者や挿絵画家をキューバに派遣し、スペインによる残虐行為を克明に伝えた。なかには、ほぼでっち上げの記事もあったが、それが大衆を煽り、大きな世論となってアメリカの戦争を正当化してしまった。
ハーストが、現地に派遣した画家のフレデリック・レミントンに対し、「君は絵を提供しろ。私が戦争を提供するから」と言った話は有名だ。
本当にアメリカは変わらない。トランプの攻撃材料になった「ロシア疑惑」にしても、ほぼでっちあげである。イラク戦争の理由になった「大量破壊兵器」に関しては、政府が流したニセ情報だった。
現在の米中覇権戦争でも、こうしたことが行われているのは間違いない。私たちは常に、メディアが流す情報を疑ってかかるべきである。
大統領選挙前に南シナ海で軍事行動を!
米中覇権戦争を、今後、メディアはどのように伝えていくのだろうか? アメリカのメディアは、中国を叩き続け、中国のメディアはアメリカを非難し続ける。この永遠のループが続いていくのだろうか?
とすれば、そのなかにはホンモノの情報もあり、フェイクもある。中国がやっていることは、時代錯誤も甚だしいが、アメリカが本当に「自由と人権、民主主義」のために戦うのかと言えば、そうとも言い切れない。
昨日のメルマガで北戴河会議についてふれたが、漏れてきた話によると、今年の北戴河会議では、長老たちによって習近平(シーチーピン)の外交政策が批判されたという。アメリカとこれ以上ことを構えるなと諭されたという。
となると、中国の「強狼外交」(強行路線)は「融和路線」に代わる可能性がある。
また真偽はともかく、ワシントンからは、トランプが11月の大統領選のために、南シナ海で中国に対して威嚇行動を起こすという話が聞こえてくる。
その場所とは、まだ人民解放軍が基地や滑走路をつくっていないスカボロー礁(中国名・黄岩島)ではないかという。ここをアメリカ海軍が急襲し、中国政府に対して南シナ海からの撤退を要求するのだという。もし中国がこれを断れば、アメリカは南シナ海の中国軍の全基地を攻撃し、力で南シナ海を解放するという。
非常によくできた話だが、ターゲットがスカボロー礁と明確にされている点で、フェイクの可能性が高い。ただし、もしこの本当のリークなら、どんなにメンツにこだわる中国でも、ここはいったん譲歩するほかないだろう。
(了)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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