連載408 山田順の「週刊:未来地図」米中覇権戦争と日本(3) アメリカは本当に日本を守ってくれるのか?(上)

 これまで2回にわたって述べてきたように、米中覇権戦争の今後については目が離せない。日本としてはアメリカ側に立って対中国包囲網に参加する。そうして、できる限り「脱・中国」をはかっていく以外の選択肢しかない。

 しかし、そうした場合、大きな懸念があります。はたして、アメリカは本当に日本を守ってくれるのか?ということだ。それが試されるのが、尖閣諸島であるのは言うまでもない。

大統領選挙を見据えたトランプの中国叩き

 前回のメルマガで述べたように、北戴河会議で習近平(シチーピン)は、長老たちに「戦狼外交」(強行路線)を批判されたという。これ以上、アメリカに強行路線を取ることは危険だと、諭されたのだという。

 しかし、“終身皇帝”となって絶対権力を握った以上、習近平が長老たちの意見に従うかどうかはわからない。とりあえず大方が予想するのは、アメリカの大統領選挙が終わるまでは、習近平は様子を見るのではないかということだ。

 一方のトランプは、大統領選挙での劣勢が伝えられているだけに、さらに対中強硬策を打ち出す可能性がある。

 実際、8月14日、ワシントンは台湾への戦闘機F16の売却を承認。さらに、動画投稿アプリ「TikTok」に対して米国資産の売却を命じた。そして17日には、ファーウェイに対する追加措置を発表した。これにより、ファーウェイはアメリカ由来の技術を持つすべての半導体を使うことができなくなった。

 はたして、この先になにがあるのか?トランプは中国叩きをさらに続けるのか? また、密かに囁かれている軍事行動を起こすことがあるのか? これらは、いまのところ誰にもわからない。

 アメリカの同盟国、具体的に言うと「属国」である日本は、アメリカの政権の意向に従うほかない。ほかに選択肢などない。ただ、それだけに悩ましいのが、はたしてアメリカは日本を本当に守ってくれるのかどうか?ということだ。

日米安保は適用されるが「日本領」ではない


 誰もが知るように、日米同盟においては「日米安保条約」(Security Treaty Between the United States and Japan)の規定により、アメリカは日本を守ることになっている。日本が軍事攻撃を受けたら、軍事行動を起こして日本を防衛するというわけだ。

 日米安保条約の第5条では、アメリカは、「日本の施政下にある領域」(the territories under the administration of Japan)に対して防衛義務を負っている。

 したがって、日本政府はこれを盾にして、これまでの対中政策を行ってきた。この先もこのスタンスは変わらない。

 しかし、トランプはかねてより「日米安保に日本は“タダ乗り”(フリーライド)をしている。これはアメリカにとって不公平極まりない」と不満をぶちまけ、続けるなら「もっとカネを払え」と、米軍駐留経費の4倍増(約8000億円)を要求してきた。

 安倍首相は、一方的にトランプに気に入られていると思い込んでいるが、トランプのこの言葉は、裏を返せば、「アメリカはいつでも日本を切る」と言っているに等しい。(編集部注:このコラムの初出は8月20日)

 そこで、問題になるのが、日本と中国が衝突すると考えられる最前線「尖閣諸島」の防衛である。尖閣諸島が日米安保第5条にある「日本の施政権が及ぶ範囲」なら、日米安保が適用されて、アメリカはここで中国の侵攻を阻止することになる。

 現在のところ、アメリカは尖閣諸島には日米安保が適用されることを認めている。日本政府はこれまで、そのような言質を何度か引き出してきた。よって、政府見解では、アメリカは尖閣諸島を守ってくれることになっている。

 しかし、ここで安心してはいけない。アメリカが認めているのは、あくまで「施政権」(administrative rights)にすぎないからだ。これは領土を意味しない。領土というのは主権が及ぶ範囲であり、これを「領有権」(sovereignty)と言う。この領有権に関しては、アメリカはこれまでなにもコメントしていない。

(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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