漁船団の接近で尖閣諸島は「波高し」
現在、尖閣諸島は緊張状態にある。中国政府が東シナ海に設定した禁漁期間が8月16日に終わり、中国沿岸部から漁船団がどっと出航したからだ。海上保安庁が17日に確認したところによると、尖閣諸島周辺海域で6隻の中国漁船が確認され、その一部は日本の領海のすぐ外側にある接続水域内を航行していたという。
これまで、中国漁船は幾度となく尖閣諸島の接続水域で操業しており、その都度、海上保安庁の巡視船が監視を続けてきた。過去を振り返れば、巡視船が中国漁船に追突されるという事件も起こっている。
中国にとって、尖閣諸島は自国領である。いつのまにかそう主張し始め、中国艦艇はたびたび日本の接続水域と領海内に侵入するようになった。とくに今年は、これが顕著で、中国艦艇の侵入は連続100日を超えた。
しかも、中国政府は日本政府に対して、中国漁船の操業を妨害するなという警告まで発してきた。まさに、尖閣諸島は「波高し」になっているのだ。
南シナ海と同じ「キャベツ戦略」を行う?
8月18日、河野太郎防衛大臣は、防衛省に中国の孔鉉佑(コン・シュワンユー)駐日大使の訪問を受けた。孔大使がなにを伝えにきたのかは明らかにされていないが、河野大臣は、尖閣諸島をはじめとする日本周辺の海空域や南シナ海での中国の軍事活動に「強い懸念」を表明し、自制するよう求めたという。
さらに河野大臣は、中国が「香港国家安全維持法」を施行したことについても懸念を示し、両国間で意思の疎通を図ることが重要だとして、引き続き防衛交流を進めていく考えを伝えたという。
中国の申し入れは、およそ想像がつく。今後、漁船が増えるので、中国艦艇も安全上の理由で出す。だから日本は妨害しないでほしいということだろう。つまり、日本の動きを牽制しに来たと思われる。中国はなんとしても尖閣諸島を日本から奪おうとしているので、それを巧みに隠すために、漁船保護という名目をわざわざ伝達しに来たのであろう。
中国は、南シナ海で行なった「キャベツ戦略」を、状況を見ながら実施しようとしている。すなわち、海上民兵を乗せた漁船団の後には中国海警局の武装公船が続き、その後に中国海軍の軍艦がやって来る。そして、日本が気を緩めたときは「時すでに遅し」という既成事実をつくろうとしている。
このシナリオを、日本政府はいまいちばん警戒している。やられたら、打つ手がないからだ。いまや、中国海軍のほうが、日本の海上自衛隊の能力を上回っている。
アメリカで公表された尖閣戦争シナリオ
今年の5月、ワシントンの
「戦略予算評価センター」
(CSBA : Center for Strategic
and Budget Assessments)という国防問題を中心に扱うシンクタンクで、日本にとっては見過ごせない論文が公表された。
上級研究員のトシ・ヨシハラ博士によるこの論文のタイトルは『Dragon Against the Sun: Chinese Views of Japanese Seapower』(ドラゴン対サン:日本のシーパワーに対する中国の見方)。ドラゴンは中国、サン(太陽)は日本を指す。つまり、日中の海軍力を中国側の視点で分析したものだ。
ヨシハラ博士は、「中国は、GDPが世界第2位となり日本と立場が逆転した2010年以降、現在にいたる10年間で、海軍能力を飛躍的に向上させた。艦隊の規模、総トン数、火力など重要な軍事指標において、日本の海軍力を追い越した。対照的に日本海軍は回復不能なほど能力が低下した」と指摘した。
そして、驚くべきことに、中国海軍は日本海軍に対して攻撃をしたい欲望にかられているというのだ。その理由は、日清戦争までさかのぼる。「1894年の日清戦争の敗戦、その後のアメリカによるアジア覇権が、『中国の夢』が阻止された原因であると中国は考え、この歴史的事実に悔恨の念を抱いている」と、ヨシハラ博士は分析している。
(つづく)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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