連載411 山田順の「週刊:未来地図」米中覇権戦争と日本(3) アメリカは本当に日本を守ってくれるのか?(完)

どうなるバイデンの対中政策、対日政策?

 このような不安定な情勢のなか、今後の注目は、次期アメリカ大統領が誰になるかである。それによって、米中覇権戦争がどうなるか? そして、対日政策がどうなるかである。現時点ではトランプの目はほとんどないので、ジョー・バイデンがなった場合を推測してみたい。

 バイデンは、ランニングメイト(副大統領候補)にカマラ・ハリスを指名した。トランプはさっそく、この2人を「のろまなジョーといかさまカマラ」(Slow Joe and Phony Kamala)と呼び、「完璧な組み合わせで、アメリカにとって誤った選択だ」と揶揄した。

 そして、トランプ寄りの安倍政権、それを擁護する日本のメディアは、大統領がバイデンになると対中政策が融和的になるとして、それを杞憂する報道をするようになった。また、多くの言論人がトランプのほうが日本にとっていいと言っている。

 しかし、本当にそうだろうか?

 私はまったく逆の見方で、トランプよりバイデン の対中政策は厳しくなると考えている。自由と人権、民主主義ということで言えば、これを理解せず、カネとビジネス、政治ショーしか頭にないトランプより、バイデンのほうが中国に厳しくならなければおかしいからだ。

 民主党は、人権侵害を許さない。バイデン大統領のスタンスは、まずは香港問題にどう立ち向かうかで決まるはずだ。そうして、トランプが始めた路線を引き継ぎ、インド太平洋戦略で、中国包囲網を強めるだろう。

 尖閣諸島問題で言えば、2013年11月、中国が東シナ海において「防空識別区(ADIZ)」を一方的に設定したことがあった。その範囲に尖閣諸島上空が含まれていたので、日本政府は大騒ぎになった。この状況を見て、当時、オバマ政権の副大統領だったバイデンは、12月に来日すると、安倍首相とともに中国に対する懸念を表明した。日本に味方してくれたのである。

副大統領カマラ・ハリスは対中強硬派か?

 バイデン政権でさらに言い添えると、副大統領になるカマラ・ハリスが中国をどう見ているかである。現在のところ、彼女がどんな対中観、対日観を持っているかは不明だが、中国に対して意外に厳しいのではないかと、私は推察している。もちろん、それは中国人に対してではなく、北京の共産党政権に対してである。

 彼女は、UCバークレーの留学生同士が結婚して誕生した移民2世である。UCバークレーがあるカリフォルニア州バークレー市はリベラルの聖地だ。とすれば、彼女が父母の影響を強く受けていれば、リベラルの価値観から、間違いなく中国の共産政権を嫌うだろう。

 彼女の父親はジャマイカン、母親はインディアン(インド人)で、2人とも超インテリだ。とくに母親はインドのカースト最上位のバラモンの出身である。とすれば、ハリスが母親の祖国インドのことを大切に思わないわけがない。インドの主敵は中国である。ハリスが中国に対して融和政策を取るとは考えられない。

 もう一つ、言い添えたいのは、今回の米中覇権戦争の主戦場は、ファーウエィに象徴されるように、ネットワーク空間、ヴァーチャル空間だということだ。貿易でも、経済でも、地政学的な領土でもない。経済がデジタルエコノミーになった現在、ネットワークを支配したほうが世界覇権を握る。

 ネットワークは人民を支配するツールだから、アメリカはこれ以上、中国発のネットワークが広がることを阻止しなければならない。だから、ファーウエイをはじめとする中国のネットビジネスを叩いた。ところが、トランプは、経済、貿易、カネのほうばかりに頭がいっている。

 この点を考えると、人権、自由を重視する民主党のほうが、ネットワーク覇権戦争には敏感だ。CAFAはほぼ民主党支持だから、結束すれば中国のネットワークと徹底して闘うだろう。

中国から撤退するのも日本に戻るのも地獄

 いずれにしても、今後、私たち日本人は、中国から引かねばならない。中国に進出した日本企業は、真剣に撤退を進めなければならない。撤退が遅れれば、米中覇権戦争の激化とともに、莫大な損失を被って、命からがら逃げ帰ってくることになるかもしれない。

 日本企業ばかりではない、欧米企業の多くが中国中心のサプライチェーンを見直し、中国からの撤退に入った。トランプ政権は、今年の3月に「中国からアメリカ企業を引き戻す」と宣言している。

 台湾の蔡英文(ツァイ インウェン)政権はもっと早く、昨年から大陸からの生産回帰を政府戦略として打ち出した。欧州企業も、一部が中国撤退に入った。

 日本は、コロナ禍が拡大した今年の4月になって、やっと中国リスクの回避を目的とした国内の生産拠点を整備するための補正予算を組んだ。

 驚いたことに、欧米日台企業の中国撤退を、中国はむしろ「好機」だと歓迎しているという。なぜなら、残された工場、設備、従業員、ノウハウなどの資産を丸ごと手に入れられるからだ。しかし、中国からいち早く引き上げた日本企業の人間に聞くと、「技術者が引き上げてしまえば持って3年」だという。

 中国を撤退した日本企業の行き先は、ASEAN諸国やインド、あるいは国内回帰である。しかし、先日、国内回帰した企業人と話したが、「国内のほうがもっと地獄かもしれない」とボヤいていた。コロナ禍で国内経済はボロボロ。いまさら設備投資しても、先行きが見えないのでできない。しかも、人材がいないという。

 はたして日本は、米中覇権戦争の時代を生き抜いていくことができるのか?現在、取材に出られず、国内に閉じ込められて家にいるだけの私には皆目わからない。(了)

*これで、3回続けた「米中覇権戦争と日本」は終了。3回も付きあっていただき、本当にありがとうございました。

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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