連載417 山田順の「週刊:未来地図」菅義偉・新首相が日本経済を地獄に導く(中)

ミクロだけで中身がない「スガノミクス」

 WSJがこんな評価をするのも、安倍前首相にはイメージの良さ、押し出しの良さがあったからだ。しかし、菅新首相にはそれがまったくない。あまりにも地味だ。

 まず、いかにも東洋的な老人であること。そして、改革意思はあってもほぼ主義主張がないこと。さらに、英語が話せず、外国人とのコミュニケーション能力がないことなどは、致命的である。

 したがって、アベノミクスを継承するといっても、対外的には「そうか」程度で終わるだけ。ほとんど相手にされないだろう。

 いま、アベノミクスとスガノミクスはどう違うのか?などということが、メディアで言われ出している。

 しかし、スガノミクスなどというものがあるとは、とても思えない。ご本人は、「携帯電話料金を下げる」などと言い出しているが、そんなミクロの話は、そもそも「ミクス」ではない。また、「デジタル庁をつくる」などとも言っているが、それは政策ではなく、すでに日本の緊急の課題だ。

 デジタルエコノミーに転換していく「デジタルトランスフォーメーション」(DX)は、すでに経済産業省が2018年12月にまとめた「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン」で提唱されている。

異次元緩和の続行で国家資本主義が強化

 今回のコロナ禍のなかで、 それでもなお、スガノミクスについて考察すると、それは、おそらく「クローニー(縁故)資本主義」、「国家資本主義」の強化の方向に進むだろう。アベノミクスもじつはこの方向であり、肝心な規制緩和は口先だけだった。

 よって、それを継承する菅新政権は、さらに古典的な利益誘導型の産業政策を推し進めるのは間違いない。菅という政治家が地元、横浜で進めてきたのは、カジノ解禁によるIR誘致などの土建政治と利害調整政治だ。これを国家単位でやるだろう。デジタル庁をつくるなら、その利権をどこに渡すのかという政治になる。

 いずれにせよ、こうした国家資本主義は、異次元緩和(国債の大量発行)により支えられてきた。コロナ禍もあり、もうこれはやめられない。日銀がおカネを刷り続け、それを国債と引き換えに政府に渡し、政府がそれを国民に配る。

 その一方で、日銀と、年金積立金を管理・運用するGPIFが株価を買い支える。これは、資本主義国家、市場経済の“常態”ではない。

 日銀はETF(上場投資信託)購入枠の拡大を続け、今年3月にはコロナ対策を名目に購入目標額を年12兆円に倍増させた。

 その結果、多くの日本企業で日銀が大株主になってしまい、本当の意味での民間企業がほぼなくなった。こうなると、「親方日の丸」だから、企業間の競

争やイノベーションは停滞する。日本経済の大問題である「生産性の異常な低さ」は、永遠に解消されないだろう。

ブタ済みされているだけのカネと株の暴落

 ここで、日銀をはじめとする公的資金が日本企業の大半の株を持っているという異常な状態を、改めて考えてみたい。この状態だと、公的資金が株を売らなければ株価は下がらない。見せかけの「景気の良さ」だけは続いていく。

 しかし、外的要因で株価は下がることがある。海外投資家が資金をいっせいに引きあげれば、株価は下落する。そこで、株価を買い支えるため、さらに多くの公的資金が投入されることになる。

 これまで、これが際限なく繰り返されてきたわけだが、その先には、いったいなにがあるのだろうか?

 現在の東証の市場規模は約560兆円である。このうちの約4分の1が、日銀マネーなどの公的資金である。ここまで公的資金の規模が大きくなると、もうなにがあろうと、これを売ることはできなくなる。なにしろ、買い手がいない。結局、GPIFがつぎ込んだ年金資金は、永遠に現金化されないだろう。

 異次元緩和とコロナ禍で、日銀がおカネを刷りまくっているとはいえ、そのおカネは行き場をなくしている。仕方なく株式に集中しているだけで、経済の活性化につながる投資には回っていない。

 銀行は融資先を失っているので、日銀の当座預金におカネをブタ済みしているだけだ。

 もし、日銀の黒田東彦総裁が辞任したいと言い出したら、菅新首相はどうするのだろうか? 確実に言えるのは、日銀がETFの購入目標額を引き下げれば、アベノミクスとそれを継承したスガノミクスは完全に幕を閉じ、株価は暴落するということだ。日銀はREITも購入しているので、株価とともに地価も不動産も暴落するのは間違いない。

(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
【読者のみなさまへ】本メルマガに対する問い合わせ、ご意見、ご要望は、私のaまでお寄せください。 → junpay0801@gmail.com

最新のニュース一覧はこちら

 

タグ :  , ,