コロナ禍のなか、米中戦争は激しさを増している。アメリカのメインターゲットは、AI、IoT、5G時代の覇権を握ろうとする「中国製造2025」。この9月から、その中核をになう半導体産業への攻撃レベルがいっそう強まりまった。そして、その影響を日本企業がモロに受けることになったのだ。
いったいなにが起こっているのか? 今回は米中戦争の新局面、半導体戦争をレポートする。
日の丸半導体「キオクシア」の上場中止
日の丸半導体大手の「キオクシアホールディングス」(旧東芝メモリホールディングス)は、この10月6日、東京証券取引所に株式を上場する予定だった。これは、今年の証券市場のハイライトとされたが、急遽、中止になった。
そのため、キオクシアは事業計画の見直し、業績予測の下方修正を迫られることになった。
キオクシアの2大株主は、56.2%の株式を握るアメリカの投資ファンドのベインキャピタルと40.6%を保有する東芝である。ベインキャピタルは上場益を見込み、東芝は上場益の株主還元を予定していた。もし、キオクシアの上場が実現していれば、その時価総額は1兆5000億円超とされ、今年最大の新規株式公開(IPO)になるはずだった。それが、すべて吹き飛んでしまったのである。
いったい、なぜ、こんなことが起こったのだろうか?
それは、アメリカの商務省による中国のファーウェイ(華為:Huawei)潰しが強化され、半導体生産の見通しが立たなくなってしまったからだ。
ファーウェイへの輸出は、この9月15日から、アメリカ商務省による認可制になった。そのため、輸出企業はアメリカの商務省に申請の手続きをしなければならなくなったが、キオクシアには輸出許可が降りなかったのである。
1990年以来の「失われた30年」で、日本の半導体産業は衰退に衰退を重ねてきた。そのなかで、キオクシアは最後の砦ともいうべき会社だ。アメリカの調査会社ガートナーによると、2019年の半導体メーカー売上高ではキオクシアは世界9位、国内ではトップである。
そんなキオクシアの主力製品は、「NAND型フラッシュメモリ」(不揮発性記憶素子のフラッシュメモリ)で、略してNAND(ナンド)と呼ばれている。NANDはUSBメモリやSDカードのような記憶媒体のほか、スマートフォンやタブレットに使われている。
キオクシアのNANDは、主に中国のスマートフォンメーカー向けに輸出されており、そのなかでファーウェイは大口顧客だった。つまり、キオシアは、アメリカのファーウェイ潰しにより、大口顧客のファーウェイを失ってしまった。これでは、上場を断念したのは仕方なかった。
段階を踏んで強化されたファーウェイ潰し
米中戦争におけるアメリカの攻撃は、ファーウェイに集中している。これまで、アメリカの商務省は、段階を踏みながらファーウェイへの攻撃をエスカレートさせてきた。
ファーウェイ攻撃の第1弾は、2018年12月のファーウェイのCFO・孟晩舟(メン・ワンツォウ)の逮捕だった。次の第2弾は、2019年5月16日、ファーウェイを「エンティティリスト」(EL:禁輸対象リスト)に掲載したことである。
商務省は、安全保障などに懸念がある企業をリストに載せることで、アメリカ企業に対してリスト掲載企業への製品提供・技術輸出をできなくすることができる。つまり、これをもって、アメリカ企業はファーウェイとの関係を絶たざるをえなくなった。
さらに、アメリカ企業だけでは抜け道があるため、アメリカ以外の企業の製品でも、アメリカ由来の技術を一定の割合以上含めば、輸出規制に抵触するとした。
こうして、アメリカはファーウェイへの攻撃を段階的に強化し、ファーウェイ傘下の半導体設計会社の海思半導体(ハイシリコン、HiSilicon)に半導体チップを提供する台湾のファウンドリー(受託製造企業)積体電路製造(TSMC)に対しては、同社との取引をやめるように圧力をかけた。
さらに半導体設計支援ツール「EDA」(Electronic Design Automation)大手の米シノプシス(Synopsys)、米ケイデンス・デザイン・システムズ(Cadence Design Systems)などにも同様の圧力をかけた。
(つづく)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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