連載428 山田順の「週刊:未来地図」アメリカの圧力で崩壊する「中国製造2025」 とばっちりを受ける日本(中)

ファーウェイ向け半導体の出荷停止

 ファーウェイ潰しの次のステップは、今年の5月と8月に、2回にわたり強化されたエンティティリストの追加による輸出規制の強化だった。商務省はファーウェイの半導体技術へのアクセスを、完全に遮断する手に出た。

 5月の発令では、ファーウェイと関連のある114社が指定された。さらに8月の発令では、新たに世界21カ国にあるファーウェイ関連企業38社が追加された。このとき、ポンペオ国務長官は、「これは、中国共産党に“直接打撃”を与えるものだ」と述べた。

 このような流れから、台湾のTSMCは、9月15日から、ファーウェイ向けの半導体の出荷の停止に踏み切った。というか、そうせざるをえなくなった。キオクシアと同じである。

 以下、今回、出荷停止を決めた、主な企業と半導体を列記してみよう。

・韓国のサムスン電子とSKハイニックス(SK hynix)のDRAM(ディーラム:コンデンサに電荷を蓄えて情報を記憶するタイプの半導体メモリ。コンピュータの主記憶装置) とNAND

・日本のソニーのCMOSセンサー(デジタルカメラやスキャナーの撮像素子として利用されている相補性金属酸化膜半導体)

・日本のルネサスの通信基地局用半導体

・台湾のファブレス(企画、製造、販売をするが工場を持たない企業)のメディアテック(MediaTek)の汎用ASSP(携帯電話やデジタルカメラの電源管理、画像処理、音声処理などに使われとして設計したプロセッサ)

 これ以外にも数多くあるが、こうしてファーウェイは必要とするほとんどの半導体と半導体製造技術を海外から調達できなくなったのである。

 

半導体ファウンドリーのSMICも潰す

 ファーウェイを潰すために、いまやアメリカはあらゆる手段を動員している。この9月からは、かねてから囁かれていた中国最大の半導体ファウンドリー中芯国際集成電路製造(SMIC)に対する輸出規制が始まった。

 次は、10月4日付の北京発の「米国の輸出制限認める 中国半導体最大手」という時事通信の記事である。

《中国半導体受託生産最大手の中芯国際集成電路製造(SMIC)は4日、米政府による輸出制限の対象になっていることを認めた上で、米政府と制限解除に向けた「暫定的な協議」を行っていると明らかにした。輸出制限は米メディアが伝えていたが、同社はこれまで確認が取れないとしていた。

 SMICが香港証券取引所に提出した公告によると、米商務省は米企業に対し、米国製の設備や部品、原材料をSMICに輸出する際には許可を申請する必要があると通知した。同社は「現地の法律や規則を順守している」と強調した上で、生産などへの影響を精査する考えを示した。》

  SMICは、2000年に設立された新しい企業だ。長い間赤字経営を続けてきたが、中国政府が徹底してサポートしたため、2019年には、売上高31億ドル、純利益は2億ドルのビックビジネスとなった。今年の8月16日、SMICは上海証券取引所のハイテクベンチャー向け新興市場・科創板(スターマーケット)に上場した。

 初値は公開価格の3倍に達し、時価総額は一時6000億元(約9兆2000億円)に達した。これは、この10年間における中国国内最大のIPOである。

 このSMICを、アメリカはファーウェイと同じく潰そうとしている。なぜなら、SMICは半導体の生産に、アプライドマテリアルズ(Applied Materials:世界最大の半導体製造装置メーカー)をはじめとしたアメリカ企業の製造技術を使っているからだ。つまり、商務省が輸出を許可しなければ、SMICは工場の新設や増設ができなり、たちまち行き詰まる。

 このような輸出規制の強化により、ファーウェイに半導体を提供できる海外企業はほぼなくなることになった。そうなると、ファーウェイは傘下の半導体設計会社のハイシリコンを通して、国内のファウンドリーから半導体を仕入れるほかなくなる。その最大手がSMICだから、SMICが半導体をつくれなくなれば、ファーウェイの息の根は完全に止まってしまうのである。

(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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