連載429 山田順の「週刊:未来地図」アメリカの圧力で崩壊する「中国製造2025」 とばっちりを受ける日本(下)

半導体生産技術は世界から周回遅れ

 半導体は昔から「産業のコメ」と呼ばれてきたように、現代のモノづくりの核心である。高性能の半導体がなければ、コンピュータやスマホから自動車にいたるまで、最新のモノはつくれない。

 つまり、SMICなどの半導体産業は、習近平と北京政府が肝いりで進めてきた「中国製造2025」(Made in China 2025)の核心産業であり、北京政府はこれまで、自前の半導体企業を必死になって育ててきた。

 しかし、現在のところ、旧世代の半導体はつくれても、最新のハイエンドの半導体はつくれていないという。

 中国の半導体企業でもっとも大きいのは、清華紫光集団(紫光集団、Tsinghua Unigroup)で、傘下に武漢新芯集成電路製造(XMC)を前身とする長江存儲科技(長江ストレージ、YMTC)、西安紫光国芯半導体(紫光国芯、Unigroup Guoxin)などをかかえている。

 紫光集団以外では、長鑫存儲技術(CXMT)、福建省晋華集成電路(JHICC)、ChangXin Memory(ChangXin)、武漢弘芯半導体製造(HSMC)などが有名だ。

 私の知り合いの半導体専門家は、次のように言う。「現在、メモリ分野では長江ストレージとYMTCが3次元NAND型フラッシュメモリを、紫光集団、ChangXin、JHCCが先端DRAMを製造しようとしていますが、いずれもまだまだ時間がかかるでしょう。このうち、JHICCはアメリカ商務省のエンティティリストに追加されたため、事実上DRAM製造は止まっています。半導体産業の進化は、プロセスの微細化に大きく依存しています。微細化では台湾のTSMCが世界最先端をいっており、2018年から7ナノメートルプロセスのチップの生産を開始し、今年からは5ナノメートルチップの量産に入っています。これは、最先端露光装置(EUV)を使った技術が確立したからです。

 これに対して、SMICは、まだ14ナノメートルチップの量産しかできていません」

カネはあっても装置と技術者がいない

 露光装置は微細な電子回路をシリコンウエハー上に焼き付ける機械で、半導体製造の中核を成す設備の一つだという。中国の半導体対産業は、これを自前でつくれないので、買ってくるほかない。

 しかし、前記したようにアメリカは輸出を禁じてしまった。

 知人の半導体技術者が続ける。「半導体をつくるには、最先端の製造装置と優秀な技術者が不可欠ですが、中国にはまだこれがありません。しかし、カネはあるので、これまではカネでこの2つを引っ張ってきました。私の仲間の技術者も何人かカネで中国に渡りました。

 しかし、米中貿易戦争が起こってからは、これはまずいと、中国から引き上げてくる者が多くなりました」

 じつは、コロナの発生源となった武漢は、自動車産業とともに半導体産業の集積地だった。しかし、コロナ禍が起こって、残っていた技術者も引き上げたという。

 まだ、アメリカは半導体の装置、技術の中国への販売を完全には禁止していない。エンティティリストに載っていない企業はまだ多い。

 しかし、いずれSMICも追加されるだろうし、長江ストレージ、紫光集団などのほかの半導体企業も追加されるはずだ。現在はまだ、商務省がSMICに対して、米国製の製造装置の輸出の申請を義務付けただけである。

 現在、エンティティリストには、世界最大の監視カメラメーカーの「HIKEVISION」アリババが支援する顔認識およびディープラーニングソフトウェアの「Megvii、」データフォレンジックの「Xiamen Meiya PicoInformation」などが名前を連ねている。

(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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