連載434 山田順の「週刊:未来地図」世界ランキングで下落を続ける日本の「いま」(完)

日本の大問題「労働生産性の低さ」

 かつて日本の繁栄を築いたものづくり産業は、これまで軒並み敗退を続けてきた。となれば、いくら頑張って働いても給料は増えないのは当然である。また、日本の労働生産性は先進国と比べると低い。このことも、給料が増えないことに大きく影響している。そこで、最後に、労働生産性のランキングについて見ておきたい。

 世界銀行では、毎年、労働生産性の国・地域別のデータを発表している。その2019年度版(2020年発表)によると、日本のランキングは、なんと34位。OECDに加盟する主要国が軒並み上位に位置しているのと比べると、日本の順位の低さは異常だ。

 世界銀行が発表する労働生産性とは、「就業者1人当たりGDP」のことで、米ドル換算の購買力平価でランキングされているというのに、この順位の低さは本当に情けない。

 もっとも、日本の労働生産性の低さは、日本経済が絶好調だった1980年代から指摘され、ここ30年ずっと変わっていない。

 「公益財団法人・日本生産性本部」では、1981年からOECDなどのデータに基づき、「労働生産性の国際比較」ランキングを発表している。それによると、2018年の日本の時間当たり労働生産性(就業1時間当たり付加価値)は46.8ドルで、OECD加盟国中21位。また、就業者1人当たりの労働生産性は8万1258ドルで、順位は同じく21位となっている。いずれも、G7国のなかで最下位である。

 就業1時間当たり付加価値は、アメリカは74.7ドルだから、日本人労働者はアメリカ人労働者の約6割しか稼げていない。その結果、よく言われるのは、次のようなことだ。

独特の雇用形態をいまこそ変えるべき

 日本企業は1万ドルを稼ぐために、29人の社員を使って7時間超の労働を行っている。これに対して、アメリカ企業は19人の社員を使って日本と同じ時間の労働を行なっている。また、ドイツ企業は25人の社員を使っているが、労働時間は日米企業より1時間以上も少ない6時間弱ですんでいる。

 労働生産性が低く給料が安い。そのうえ、残業が多いのだから、多くの日本企業は、いわゆるブラック企業と言っていい。ドイツでは、社員は17時になると帰る。ところが、日本では社員は17時から仕事(残業)を始める。こう皮肉される始末だ。

 日本の労働生産性の低さと残業の多さは、間違いなく、日本独特の雇用形態からきている。

 日本の雇用形態は「メンバーシップ型」で、欧米のそれは「ジョブ・ディスクプション型」(業務の方法と成果を、会社と契約する雇用形態)である。日本人は、「就職」するのではなく「就社」して会社のメンバーになる。そうして、社内の人事異動により仕事がどんどん変わる。

 これでは、個々の仕事の範囲が明確ではなく、成果責任もはっきりしない。テレワークが進まないのも、こうした「メンバーシップ型」雇用にその原因がある。

 ウイズコロナ時代を考えると、こうした雇用形態を改め、労働生産性を上げないと、日本の衰退は加速する一方になる。日本はコロナ禍を奇貨として、これまでのシステムを大きく変えるべきところにきている。

 そうしなければ、ランキングの下落はさらに続く。「失われた30年」が「40年」になりかねない。

(了)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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