世界中でキャッシュレス化が進んでいる。すでに中国では、現金がほぼなくなった。日本でも、コロナ禍が拍車をかけ、キャッシュレス化が進んでいる。
そんななか、最近、注目を集めているのが、「中央銀行が発行するデジタル通貨」(CBDC:Central Bank Digital Currency)だ。中国では「デジタル人民元」の実証実験がスタートし、アメリカでも「デジタルドル」の発行・実用化への動きが加速化している。日本でも、遅ればせながら「デジタル円」の検討が始まった。
そこで、「CBDCとはいったいなにか?」「通貨がデジタル化されるとどうなるのか?」についてまとめた。
始まった「デジタル人民元」の実用化
10月10日から、中国の広東省深セン市で、「デジタル人民元」の実用実験が始まった。中国人民銀行(中国の中央銀行)は、これまでも中国各地で実用実験をしてきたが、今回は最大規模。抽選で選ばれた5万人の市民に、1人当たり200人民元(約3100円)、総額で計1000万元(約億5700万円)を配布した。
デジタル人民元を受け取った市民は、スマートフォンで専用のアプリをダウンロードし、QRコードを使って支払いを行う。
この実用実験開始にあたり、中国人民銀行の易綱(イー・ガーン)総裁は、2022年に開催予定の北京冬季五輪までにデジタル人民元を発行する方針を改めて表明した。
デジタル人民元は、いわゆる「デジタル通貨」(DC:Digital Currency)で、紙の人民元に代わり、中国人民銀行が発行する「法定通貨」(legalcurrency)だ。最近では、中央銀行が発行するデジタル通貨を「CBDC(シービーディーシー)」(Central Bank Digital Currency)と呼ぶことが定着し、各国とも実用化を目指して検討中だが、本格的な実証実験を始めた国は中国だけだ。
アメリカも欧州も導入に向けて作業を加速化させているが、まだ研究途上。日本にいたっては研究を始めたばかりだ。
国際決済銀行によると、2019年度までに、世界の主要国の金融当局の約7割がCBDCの発行を検討している。しかし、中国ほど先行している国はない。それは、中国が世界一のキャッシュレス国なこともあるが、別の大きな理由もある。この点については、後述するとして、まず、CBDCとはなにか?について、再確認しておきたい。
そもそもデジタル通貨とはなにか?
一口にデジタル通貨と言えば、いま私たちが使っている「電子マネー」(electronic money)が真っ先に思い浮かぶ。続いて、ビットコインなどの「仮想通貨」(「暗号通貨」という言い方のほうが的を射ている:crypto currency)もデジタル通貨だ。
したがって、CBDCは3番目のデジタル通貨ということになるが、最大のポイントは、中央銀行が発行するということ。つまり、上記の2つのデジタル通貨は、民間によるものということだ。
では、この3つのデジタル通貨はどのように違うのだろうか? まとめると、次のようになる。
【電子マネー】
電子マネーは、日本の場合、円をデジタルで記録し、現金の代わりに使用できるようにしたもの。基本は、現金をあらかじめチャージしておく「プリペイド」方式。クレジットカードと連携した「ポストペイ」(後払い)方式もある。
電子マネーは、あくまで法定通貨の代替で「円」や「ドル」そのものではない。
【仮想通貨(暗号通貨)】
仮想通貨は民間が「ブロックチェーン」技術により、ネット上で流通させているデジタル通貨。これにより、世界中で決済ができるが、その価値は国家により保証されていない。ユーザー同士の信認で取引は成立する。
よって、法定通貨である円やドルに換算するとき、そのレートは常に変動する。
【CBDC】
法定通貨である円やドルをデジタル化して、現金と同じ機能を持たせるもの。日本銀行のウェブサイトでは、以下の3つの条件を満たすものとされている。
(1)デジタル化されていること。
(2)円などの法定通貨建てであること。
(3)中央銀行の債務として発行されること。
(つづく)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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