連載436 山田順の「週刊:未来地図」現金がなくなる日は来るのか? 加速する「デジタル通貨」(CBDC)の実用化(中)

CBDC導入のメリットのデメリット

 世界中でキャッシュレス化が進んでいるのは、なにもかもがデジタル化されていく「デジタルエコノミー」の一つであるとともに、使い勝手がよくて便利だからである。しかし、単に利便性だけでは片付けられない問題がある。

 とくに、国家が発行する法定通貨そのものがデジタル化されると、発行主体である国家側と、利用する国民側それぞれに、メリット・デメリットが生じる。以下、それをまとめてみる。

【国家側から見たCBCD】

[メリット]

・偽札がなくなる。

・紙幣や貨幣の製造、流通、管理コストを削減できる。

・マネーロンダリングや脱税を防止できる。

・税金をもれなく徴収できる。

[デメリット]

・クラッキングや偽造に対する最高レベルのセキュリティが必要になる。              

・商習慣の変化が予想され予期しないデメリットが生まれる可能性がある。

【国民側から見たCBDC】

[メリット]

・銀行口座がなくても各種決済サービスが可能になる。

・紛失や盗難のリスクが低くなる。

・収入、支出がすべて記録されるので納税などの手続きが楽になる。

[デメリット]

・タンス預金ができなくなる。

・資産に関するあらゆる情報が国家に筒抜けになる。

 

CBDC導入をめぐる世界各国の動き

 中国のCBDC実用化の加速で、世界各国のCBDCをめぐる動きが新たな局面に入っている。

 すでにスウェーデンは「eクローナ」の発行を発表しているし、タイでと香港は、2020年内にデジタル通貨取引を始めることで合意している。EUでは、ECB(欧州中央銀行)のクリスティン・ラガルド総裁が、「ユーロ圏が世界的なデジタル通貨への移行と決済システムの変化から取り残されてはならない」として、9月22日に「デジタルユーロ」についての長編レポートを公表し、現在、パブリックコメントを募集している。

 なぜ、パブリックコメントが重要なのかというと、CBDCはデジタル情報だけに、紙幣と違って様々なことが可能になるからだ。たとえば、情報の範囲をどうするか、取引情報以外の情報も加えるか、また使用をユーロ圏だけに限定するか、スマホなどの端末からどのように使用できるようにするか—-など、多くの問題を解決しなければならない。

 アメリカでも、CBDC導入への動きが活発化している。今年の6月、FRBのパウエル議長が「真剣に取りかかっている案件の1つ」であると明かし、連邦議会でもヒアリング開かれ、実用化への検討が開始された。

 連銀のなかで、ボストン連邦準備銀行の実証実験がいちば進んでいて、マサチューセッツ工科大学(MIT)のデジタル通貨イニシアティブ(DCI)と連携して、「デジタルドル」の設計に入っている。この実証実験の結果は、いずれ公表されるという。

周回遅れの日本は

なにをやっているのか?

 では、日本はどうなっているのか?

 これまで、政府も日銀も「発行の予定はない」としてきた。それが、7月発表の「骨太の方針」(閣議決定)のなかで、突如としてCBDCについて、「日本銀行において技術的な検証を狙いとした実証実験を行うなど、各国と連携しつつ検討を行う」と触れられたので、関係方面が慌てて議論を始めることになった。

(P11に続く)

 「骨太の方針」を受けて、7月20日に、日本銀行内に「デジタル通貨グループ」が設置された。そして、7月29日、日銀の雨宮副総裁は、日本記者クラブで講演し、「現時点でデジタル通貨を発行する計画はない」としたものの、「将来必要になった時に的確に対応できるように準備する」と表明、「一段ギアをあげて検討を進めていく」と述べた。

 一方、民間では、3メガバンクやJR東日本、NTTグループなどが参加する「デジタル通貨勉強会」が6月に発足した。ここでは、現在、活発な論議が行われている。

 とはいえ、日本は先進各国に比べ、周回遅れと言っていい。というのは、CBDCは課題が多く、日本のような集団主義でものごとを決め、責任主体がはっきりしていない国では、なかなか結論が出ないからだ。

 たとえば、「ユニバーサル・アクセス」という問題がある。

「誰もがいつでもどこでも、安全確実に利用できるのか」と、延々と話し合われる。現在のデジタル決済はスマホ使用がほとんど。しかし、高齢者はスマホを持っていない人が多い。そこで、「多様なユーザーが利用可能な端末の開発が重要だ」という意見が出る。

 また、安全性、強靱性はどうなのかという議論もある。電源喪失となったら、取引・決済はできない。「オフラインの環境でも決済できる機能を備えるべき」という意見が出る。

 もちろん、これらの課題は、日本ばかりではなく、世界各国が直面している。アメリカでは、スケーラビリティ、処理能力、プライバシー、サイバー攻撃への抵抗力などについて議論が交わされてきた。

 現在、CBDCには、「アカウント型」(銀行口座などと同じようなスタイル)とトークン型(仮想通貨と同じようなスタイル)がある。このどちらにするか、また、マネーロンダリング防止のため本人確認をどうするかなどは、極めて重要な課題だ。

(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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